タイトル(仮)
「万事屋たちもいるかも知れん。合流次第相互の情報を交えていくぞ」
「はい!」
***
万斉とそれに次ぐ浪士の襲撃を受けながらも沖田は階段付近で状況を整理すべく、息を潜めていた。
「河上は引いたか…チッ、モブ共がうざってぇですねィ」
(奴らの口振りだと、まだ旦那たちは来ていない。高杉と旦那って確か攘夷戦争で共に戦った仲間だったよな…まぁ、旦那の今を考えると、高杉と対立すんのも分かる気がしまさァ)
白夜叉と畏れられていた過去を持ちながら、坂田銀時という人間は天人である神楽と生活し、真選組と時には手を組んで戦い、新八らと家族のように苦楽を共に生きている。
「旦那も高杉も妙なカリスマ性があるみたいですしねィ」
味方にも敵にも一癖も二癖もある者が多い。本人たちの意志とは関係なしに生まれた確執もあるかもしれない。
「難儀な世の中ってことですかねィ……」
沖田はいつ襲われても対処できるように刀を抜いて心を静めた。
「真選組!?」
「!」
(…あんたら、どこまでバカなんでィ)
何も知らない万事屋に思わず呆れかけたが、沖田は敵に会う前に3人に会えたことにわずかに安心した。
敵が気づいていない内に帰らせようと思い、声を出しかけたが気取られることがあってはマズいと沖田は音を出さずに口元だけを動かした。
(察してくれよアホチャイナ。俺はまだアンタらを死なせたくはねぇんでさぁ)
***
自分たちの声に気付いて沖田が一瞬だけ目を見開いたが、声を荒げてはいけない状況なのだろう、じとりと頬に流れる汗をそのままに沖田は口を動かして何かを告げようとしていた。
「…逃げろ、って言ってるアル…」
「あの沖田さんが余裕なさそうにしてるなんて…銀さん…」
「あいつがああ言ってるんだ。バカみてぇに頭突っ込まずに此処でるぞ」
ここにいても真選組の邪魔になるだけだろう、と心配そうにする新八と神楽を連れて階段を上がろうと振り向けば、楽しそうにこちらを見やる神威がいた。
「久しぶりだね、お侍さん」
「っ、お前は!!」
「兄貴…!」
「ねぇ、帰るなんてつまんないことしないでよ。遊ぼう?」
「悪いねぇ、団長がこういったら聞かなくてねぇ」
じりじりと迫ってくる神威たちから逃げるように階段を降りていけば、沖田たちのいる階に到着し、銀時は舌打ちをした。
「旦那!?なんで逃げてねぇ……チッ、まだ、いたってわけかぃ」
「あれー、君も強そうだね…同じ臭いがするよ」
「出たよ。でたでた…団長の悪い癖だよ…ったく」
気怠そうに一歩神威より前に出た阿伏兎に銀時たちが構えれば、部屋の奥から爆音が響いた。
「ッ、十番隊は俺に続け!五番隊は医療班の周り固めろ!お前らは近藤さんとこに回れ!」
「「はい!」」
埃が舞い上がる中に原田の怒号が響き、その中から真選組が散り散りに駆け回り、金属音がいろんな場所で起こり始めた。
「旦那、俺がこいつ食い止めてる間に逃げてくだせぇ」
「へぇ、面白いこというね。俺をくい止められると思ってるの?」
にこやかな笑顔から目をカッと開きながらも神威は口元に余裕を携えて沖田を吟味していた。
「沖田さんも強いけど…あいつらは…このままじゃ沖田さんがっ!」
「おいサド!お前じゃあいつの相手は無理ヨ!!!」
制止も聞かず、沖田が刀を抜きながら神威に近づけば、阿伏兎が呆れたように溜息を吐いて神威の傍から離れた。
「ったく…団長?……ここにはまだあいつらがいるから建物を壊すんじゃねーぞ」
「…あいつら…?」
「あぁ…そういえばお侍さんとは顔馴染みだったね…折角だし会っていきなよ」
ドクン、と嫌に響く心臓の音に焦燥感が沸き立ちながら銀時はビルの奥の薄暗い先を見やった。
「ここには…高杉晋助がいるよ」
「!!たか、す──ドコォオオオオオッ!
銀時の驚きをかき消すように打ち鳴らされた爆音に一同が反応すれば、武市が苦々しい表情でこちらを見つめていた。
「またですか…」
「お前は…高杉のとこの…」
「また子さん!あなたちゃんと侵入者の駆除してくださいよ。それくらいしか出来ないんですから」
──パン、パンパン!!
「武市先輩ィィイ!うるせぇっすよ!そもそもコイツ等招き入れたのは高杉様っす!!」
「違いますよ。ふぅ、これだから猪女は……ほら、招待も出していないのに来てる輩がまだいるでしょうが」
武市がまた子に視線を促してやり、また子が視線の先にあったドラム缶の積み重なったそこに向かって数発撃ち抜けば黒い陰が飛び出し姿を現した。
「やはり銀時たちも巻き込まれておったか。来て正解だったようだな」
「「ヅラ!!」」
「ヅラじゃない、桂だ!」
「桂さん、なんで…!」
「部下が妙な情報を仕入れたんでな。もしやと思い真選組に紛れて潜入させてもらった」
「帰っていただけませんか。私どももここで貴方とやり合うのは得策ではありません」
「安心しろ、ここにきたのは俺一人だ」
桂が武市に刀を向けて距離を作れば、攻撃をいつでも繰り出せるようにと神楽は番傘を構えた。
「一人、というなら今ここでの面倒は避けられますかね」
「谷潜蔵っつうのは高杉様の変名っす。まんまと騙されたっつうわけっすね」
「…どうやら、俺たちはタダじゃ帰れないらしいな…」
背後で繰り広げられている神威と沖田の戦闘はどっちつかずのまま互いをボロボロにしていく。どちらも強者との戦いからか口角が持ち上がり生きるか死ぬかの戦いを楽しんでいるようにも見えた。
「へぇ、団長とこんなにやり合えるなんて…地球人にも面白い奴がいるんだな」
「くっ、あんたまで戦いに混じるなんて言うんじゃねぇですよねっ!」
「そうだよ、阿伏兎。混じってきたら殺すからね」
「大丈夫だっつーの。微塵も興味ねぇや」
「そう、ならよかった」
部屋中に金属音と銃撃音が共鳴し、殺気が交じり合う。
***
「トシ!!!」
「副長!」
壁伝いに歩いてきていたボロボロの土方を発見し、近藤たちが駆け寄れば土方は目を見開いて近藤の怪我をした右手を掴んだ。
「…っ、トシ…」
「やられたのか。誰にだ……誰にやられた」
「いや、お前のが凄い怪我だから!!俺のは掠り傷!」
「副長…少し失礼します」
山崎が隊服の皺から土方の肺付近を触れば、盛大に顔をしかめた土方に唇をかみしめた。
「副長、息はし辛くありませんか?」「…だいぶマシになってきた…とこだ」
「トシ大丈夫なのか!?痛くないか?痛いの痛いの俺に飛んでこーい!!」
こんな状況でもいつもと変わらない大将に、知らぬうちに入っていた力が抜けて山崎は小さく笑った。
「沖田隊長、大丈夫ですかね」
「そうだな、早く総悟と合流しよう」
***
「…相変わらずバカだな銀時(オマエ)は…」
刀に付いた血を払ってから、その男は懐にある教本を手にとり静かに笑った。
「壊してやるよ」
この腐った世界を。
***
神威と沖田の戦いを阿伏兎が見守っていれば、チュインッと耳元を銃弾が掠めていった。