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黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 19

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 まだ、姉と比べれば未発達の力通眼を示す、淡い翡翠色の瞳が輝き、体内に宿る力が解放され、同時に迫り来る羽根に向かって指を差した。
「止刻、法……!」
 指差した先に、時を停止させる、小さな領域を作り出し、そこに入った羽根は一瞬動きを止めた。一秒にも満たないその瞬間に、シンはすぐさま移動した。
 間もなく術は解け、周りの羽根に遅れて、シンのいた所も含め、羽根が地面に突き刺さると爆ぜた。
 爆発が止む頃、シンはそこに気配すら残さず、消えていた。
「……くやしいっ!」
 ジャスミンは一人叫ぶと、再び、シンの息の根を止めるべく、僅かな気配すら逃さぬよう探し始めた。
 岩陰に身を潜めていたシンは、ジャスミンが明後日の方向に向かっていくのを確認すると、ひとまず深くため息をついた。
 それから懐より、薬草を取りだし、先の戦いで火傷を負った腕に貼り付ける。
「……ぐあっ、く……!」
 傷口に薬草は、思いの外滲る。シンは大声を上げたくなるが、ジャスミンにも魔物にも感づかれぬよう、なんとか耐えた。それから布を取り出し、破り千切って包帯代わりとして腕に巻き付ける。
 簡易な処置を終えると、シンは相変わらず鈍色の、空を見上げた。
 うっすら白く光を放つ太陽は、そろそろ西に傾き始めていた。シンの術が解けるのは、今日の日没である。
ーーよし、頃合いだな……ーー
 シンは再び携帯食を取り出し、鷲掴みにして口に放り込んだ。何度か咀嚼すると、やはり慣れない味に、むせかえりそうになりながらも飲み込む。
 即効性のある、体が熱くなるほどの滋養強壮効果を感じながら、シンは体力を取り戻した。
「……反撃の時だ」
 シンは呟くと、ジャスミンの気配を探った。どれほど離れていようとも、ジャスミンの気配は簡単に探れる。強力な炎を纏いながら、目に入るものは悉く破壊するエナジーを探れば、自ずと彼女の居場所を当てられるのだ。
 その炎のエナジー、破壊の限りを尽くす巨大な力は今、ここより南東の方角から感じられる。
「向こうか、よし……!」
 シンは足音をほとんど立てずに、走り出した。
 駆け抜け、ジャスミンの気配が色濃くなっていき、ついには炎を纏っているジャスミンと思しき赤い光が目に入る。
「…………」
 シンは全神経を視神経に集中させた。
 距離は約二百メートル。このように集中すれば、力通眼にそなわる超視力で、これほど離れていてもジャスミンの顔までくっきりと見ることができるのだ。
 望遠鏡越しに見るように、まるで手の届きそうなほどはっきりと見える、ジャスミンの視線の方向を観察する。
 ジャスミンはもう慣れたのか、最大出力の『プロミネンス』をマントの姿に変え、それを纏い、辺りを警戒していた。
 恐らく、シンを探し回っているのだろう。ジャスミンの周りは、切り立った岩がいくつもそびえており、更に地には、彼女に襲いかかったものの、返り討ちにあったと思われる魔物の死骸が転がっていた。
ーー……さて、行くか!ーー
 シンは超視力を元に戻し、ジャスミンの所へ物音立てずに静かに駆け寄った。
 もちろん、直線的には近寄らない。ジャスミンの背後に回り込むよう、シンは円を描くように駆け抜けた。
 距離にして百メートルを進んだところで、シンは岩陰に潜むようにして、ジャスミンをよく見た。
 三日三晩、エナジー全開で暴れ続けていたため、疲弊しているのか、ジャスミンはその場から一歩たりとも動かない。
ーーよしっ……!ーー
 シンは意を決して、ジャスミンへと一気に駆け寄った。
 岩の上に飛び上がり、ジャスミンの背後、頭上をねらって飛びかかる。
「な、に……!?」
 ジャスミンは突然の強襲に驚きをみせた。
 シンはジャスミンの肩の上に乗り、後頭部を押し、地に這い蹲らせようとしたのである。
「離……せ……!」
 ジャスミンは、両肩に乗っているシンの脚を握り、しばらくもがいた後、手のひらを上に向け、炎を巻き上げた。
 シンはその前に、ジャスミンから離れ、すぐさま逃げ出した。大岩のを飛び越し、姿を隠す。
「……っうう! そこ!」
 ジャスミンは爆発を起こす火炎弾を、シンが逃げ去った岩の方に撃ち出した。
 火炎弾は大岩に命中し、爆発と同時に粉々に砕けた。盛大な音を立てて、砕けた岩は爆煙を上げる。
 その先にシンの姿はない。
 ジャスミンは辺りを探るが、シンの気配を感じ取れない。それもそのはずである。ジャスミンは疲弊した状態の上、強襲を受けている。
 もとより理性のない獣同然の思考しか持ち合わせていない以上、シンほど忍ぶのに長けている者を捉えることなど、今の状態では不可能であった。
 ならばこれまでのように、辺りを破壊するのみであったが、それができるほどのエナジーがでない。
 いくら最強のエナジーといえども、三日三晩最大出力で使っていれば、パワーダウンも仕方がなかった。
 シンの策はこの瞬間を以て、成功した。ジャスミンから逃げ続け、自身はひたすら身を隠すことに専心し、彼女のエナジーが弱まる瞬間を待ち続けていたのだ。
「さあ、鬼ごっこは終わりだ!」
 シンはいつの間にやらジャスミンの背後に立ち、刃を振るった。
「……っく!」
 ジャスミンは炎のマントを翻し、刃を弾こうとした。しかし、刃がぶつかる音はせず、シンの姿も消えていく。
「残念、そいつは残像だ」
 シンは今度、ジャスミンの側面に片膝立ちしていた。そしてジャスミンに向けて切っ先を突き出す。
「……させない!」
 ジャスミンは周囲に炎を放った。しかし、威力も範囲も弱体化しており、シンは難なく離れた。
 ジャスミンの戦力は、まだ完全には落ちていない。またしても逃げるシンに向けて火炎弾放つ。
 しかし、これまで大岩も粉砕していた火炎弾は、ただの火の玉程度の威力となり、シンが逃げ込んだ岩を砕くには至らなかった。
 ここまでの戦いで、殺意の塊となっていたジャスミンは、正確に狙いを焼き尽くす、という考えは頭になかった。
 周囲の物ごと破壊していたジャスミンは、素早く動き回り、なおかつどこから現れるのか分からない相手を前にして、すっかり混乱しきっていた。
「ほら、どうした!?」
「うぐっ!」
 シンは岩陰を駆け、ジャスミンの死角から蹴りを放った。そして再び姿を消す。
 それからも、シンの忍の技は続いた。
 四方八方、あらゆる方向からシンは姿を現し、ジャスミンにじわじわとダメージを与えていった。
 そしてついに、ダメージ並びにエナジーの消耗が重なり、ジャスミンは地に膝をついた。
「どうやら、ここまでのようだな、ジャスミン!」
 シンはジャスミンの側に寄り、剣の切っ先を向ける。
 日は、ほとんど没している。間もなくジャスミンの術も解ける。後はその時までジャスミンを取り押さえるだけだった。
「……うがあああ!」
 ジャスミンは駄々をこねる子供のような声を上げると、周囲に炎を放った。
「何っ!?」
 シンはすぐさまジャスミンから離れる。
「まさか、まだそれほどのエナジーが残っていたとは……」
 まだジャスミンがエナジーを使えることに、シンは驚いた。しかし、威力は小さく、やはりもうジャスミンに、戦い続ける力が残っていない事は、一目瞭然であった。