黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 19
ここまでは読み切れなかった。回避しようにも、小さい土の槍は無数に迫っており、更に上昇するのも、逆に急降下するにしても、どちらも集中射撃を受けることになる。
『爆浸の術!』
ならば、とシンは迫り来る土の槍を迎撃しようと爆発を起こした。
爆炎はロビンのエナジーを打ち砕き、防御は成功したかに思えた。
しかし、シンがエナジーに気を取られている隙に、ロビンは縮地法で急接近し、さらに先ほどのように空中へ飛び上がっていた。
「……っ!」
「落ちろ……!」
シンが気付いたのは、ロビンに殴打され、地面に叩きつけられた後だった。
「が……は……!」
ロビンの拳による一撃は、まるで巨大な槌で叩かれたかのような重さであった。
ロビンは着地と同時にシンへと駆け寄り、シンの息の根を止めようとする。
ロビンの切っ先は、地に転がるシンの体を貫こうとした。しかし、そこには既にシンの姿はなかった。
シンは纏うエナジーで、横たわった状態から、空中に跳ねていた。そして足で弧を描きながら、ロビンに蹴りを放った。
ロビンがそれを受け流すと、シンは勢いそのまま空中で横回転し、体勢を立て直し、迫るロビンの剣を受け止め、下がる。
「……ちっ! ふざけるなよ……」
シンは先ほど受けた殴打で口を切り、血の混じった唾を吐きとばした。
秘められた力を解放したロビンの強さは、予想を遥かに超えていた。
一度受けるだけで技を習得してしまう学習能力に、ずば抜けた身体能力。更に特筆すべきは、無駄のない技の使い方だ。
「……こんな奴相手に、よく姉貴達は生きていられたものだな……」
ロビンは小さな笑い声を上げた。
「ふふふ……、オレと対峙して、傷はその顔の痣だけ、か。あの女どもに比べればなかなかやる……。だが、まだ弱い……!」
ロビンは真っ赤な目を見開き、シンに迫った。
シンは身構え、どこから攻めいられても対応できるよう、ロビンの気配に注意を払う。
「間合いに入った……!」
シンは剣の届く範囲に、ロビンが入り込んだのを見計らい、右の白銀の刃を振るった。
『サンド』
ロビンは刃が当たる刹那に、エナジーで己が身を砂へと変えた。砂塵はシンの目をつぶす。
「くっ!」
視界が闇に包まれた瞬間、シンは脇腹に熱のような感覚を覚えた。それがロビンに斬られたものと判断できたのは、傷口から血を噴いた後であった。
「ぐおお……!」
シンはまだ回復しない目を堅く瞑りながら、痛みの走る脇腹を抑えた。
傷は意外に浅く、内蔵までは達していない。目が見えないながらも、ロビンの気配を察知し、シンは身をかわそうとしていたのだ。
「ほう……」
ロビンは砂にした自らの身を完全に元に戻すと、切っ先をシンへ向ける。
「目ではなく、オレの気配を感じてオレの一撃を軽減したか……。たいしたものだ……」
シンの視界はようやく回復した。しかし、もうロビンが少し手を伸ばせば、シンの喉笛を貫けるほどの間合いにあった。少しでも動けば、シンに待ち受けるは死である。
「連突刃・射式!」
尖った風の刃が、ロビンに撃ち出された。その数は、数百をも超える。
「邪魔だな……」
ロビンは迫り来る刃をものともせず、エナジーによって風の針を受を止める。
「天・飛燕刃!」
ヒナはロビンのような縮地法を使い、空高く跳び上がり、空中で抜刀すると、二回刃を振るった。
刀の軌跡が十字の衝撃波となり、ロビンへと飛んでいった。
「……小賢しい!」
ロビンは十字型の衝撃波を、剣で受け止める。しかし、その衝撃波は強く、ロビンを大きく後退させた。
ヒナの攻撃は続く。
ヒナは落下しながら納刀し、着地の瞬間に刀にエナジーを込め、煌めいた瞬間に大きく一歩、踏み出した。
「龍突刃!」
気力のこもった突きは、龍の身体の如く、どこまでも届きそうなほど射程が長く、音速をも超えていた。それほどの速さ故、衝撃波はエナジーによるものだけでなく、物理的現象によって放たれていた。
それほどまでに速い突きも、やはりロビンは避けていた。しかし。
「……ちっ!」
ロビンは肩口に触れる。少しであるが、出血している。ヒナの技は、僅かにロビンを掠めていたのだ。
ヒナは、脇腹を抑え、屈み込むシンへと近付いた。
「交代しましょう、シン。その傷、ピカードにでも治してもらいなさい」
「すまねえ……。大した時間は稼げなかった……、何か読めたことはあるか?」
ヒナは頷く。
「ええ、少しね。……ぼやけてたものの形が分かったくらいだけど……」
「なんだそれは、本当に読めたのか……?」
シンは、まだはっきりしない答えしかしないヒナを疑う。
二人が話している間に、ロビンが攻めてきた。それを読み、ヒナは抜刀し、カチンと刃をぶつけ合い、ギチギチと音を鳴らしながら刃を交えた。
「話は後、早く、行きなさい……!」
純粋な力は、ロビンの方が圧倒的に上である。ヒナはどんどん圧されていく。
「わ、分かった……」
シンは軽く返事をしながら二人から離れる。
ロビンは刃越しからニヤリと笑った。
「前より少しはやるようになったなぁ? なかなか楽しめそうだ」
「余裕ね……、けど、簡単にはやられないわよ……!」
ヒナは斜め後ろに後転しながら、不利な鍔迫り合いから抜ける。
「長引かせたら、間違いなくあたしが負けるわ。悪いけど、早々に決着付けさせてもらうわよ!」
ヒナは納刀し、鋭い、翡翠色の目をロビンに向けた。
「ククク……、そんな無謀な事、本当にできるとでも思っているのか?」
ロビンは嘲笑った。対するヒナは、ロビンのあらゆるものに恐怖を与える、赤黒い眼光を向けられながらも、その視線は外さない。
「いくわよ……」
ヒナは右手の人差し指を立て、一瞬目を閉じ念じると、指先をロビンに向けた。
「秘技・止刻法!」
ヒナの指先と瞳が輝いた時、ロビンの周りが霧に包まれ、謎の変化が起きた。
「なっ!? か、体が動かん……!?」
正確には、動くことはできるのだが、それは果てしなく遅い動きである。まるで全身を鉛や岩で、括り付けられたかのようだった。
「かかったわね、一気にしとめる!」
動きの鈍くなったロビンへ、ヒナは容赦なく縮地法で距離を詰めた。
間合いに入るまで、ヒナは先ほどの矢のような突きを放ち、ロビンを貫いていく。ロビンは体の各所から血を噴き上げた。
「炸裂刃!」
ロビンに接近すると、ヒナは音速で抜刀し、それにより発生する衝撃波によって、ロビンはズタズタに引き裂かれた。
「ぐうう……!」
ヒナが技を終え、間合いから外れた瞬間に、ロビンの周辺に起きた現象は終息した。
岩と鉛の重さから解放されたロビンは、すぐさまその場に膝を付く。
しかし、膝を付いたのはロビンだけではなかった。
「うっ……」
ヒナは膝を付くと、ぜえぜえと息を切らした。
「三十秒……、ちょっと、長すぎたわ、ね……」
ヒナはまるで全力疾走した人間のように、大きく体力を消耗していた。
体力を消耗したのは、切り傷を受けたロビンも同じであった。しかし、ヒナに比べると、消耗の度合いが小さい。
「貴様、よくもやってくれたな……!」
作品名:黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 19 作家名:綾田宗