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綾瀬しずか
綾瀬しずか
novelistID. 52855
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あゆと当麻~嵐のdestiny~

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迦遊羅の脳裏に映像が流れる。
懐かしい里の風景。
楽しげに遊ぶ自分と亜遊羅。
突然、その幸せな風景が一転する。
迦遊羅は妖邪兵に連れて行かれ、亜遊羅は切られる。
その時の衝撃が迦遊羅に直接伝わる。
迦遊羅の口から小さな悲鳴がもれる。
亜遊羅の祖父が舞い戻って亜遊羅を助けようとするが、その祖父も切られてしまう。
虫の息の亜遊羅に祖父が術をかける。
迦雄須一族の長たる迦遊羅にその術がなんであるかは一目瞭然だった。
「姉様! 今のはっ」
迦遊羅の声が震える。
亜由美は閉じていた瞳をゆっくりと開ける。
「あ、ごめんなさい。そこまで見せる予定はなかったのだけど」
そう言ってぺろりと舌を出す。
「そんな悠長なことを言っている場合ですか? 今のは・・・今のは」
震える迦遊羅の体を抱きしめる。
「黙っていてもしかたないわね。そう。ジジ様は、といってもあなたが思っているような祖父ではなくて長は・・・」
亜由美はそっと秘密を打ち明けた。
「・・・だから、四百年も時を越えてあなたに会えた。
あなたに会えただけでもこの今に生まれたかいがあったというもの。
ジジ様と二人だけの生活にあなたという妹ができたんですもの。あの頃は何も知らなくてよかった」
うれしそうに亜由美は語り、迦遊羅はぽろぽろ涙を流す。
「泣かないで。私は別にこの事をいやがっているわけでもなんでもないから。自分の運命だと思ってちゃんとうけとめているから。だから泣かないで」
亜由美は自分の代わりに涙する妹分の背中を優しく撫で続ける。
「この事はまだ誰にも言わないでね」
その頼みに迦遊羅は顔を上げる。
「もう少し、やわらかな方法で伝えたいから。今の迦遊羅の様に悲しませたくないから」
そう言ってはかなげに亜由美は微笑んだ。迦遊羅はただ涙をこぼしながら黙って頷いた。

夜中、こっそり亜由美は部屋を抜け出す。
まだ寒い年明けの湖畔にたたずむ。
そして人知れず涙を流す。
「どうして・・・私が亜遊羅なの・・・? 教えてジジ様」
だが、答えはない。
涙が乾くとまた屋敷に戻る。
だが、それでも部屋に戻らず、洋間で月を眺める。
じっと眺めて自分の人生を振り返る。
もっといい子でいてあげればよかった。
もっと家族を大事にすれば良かった。
もう家族には会えない。
自分はもう亜由美ではないから。
亜遊羅となってしまった。
後悔だけが胸に押し寄せる。
幾夜かそう過ごしたある夜、当麻はぼんやりと洋間で月を眺める亜由美を見つけた。
月明かりだけの部屋に今にも空気に溶けてしまいそうな感じの亜由美。
声をかけるにもかけたらすっと消えてしまいそうで声もかけられない。
あれほど無邪気に笑っていた亜由美はいつのまにかもろいガラス細工のような少女に変わってしまっていた。
ほんの少し、自分がそばにいなかっただけで。まったく別人の様に変わってしまっていた。
輝くような笑顔はもう浮かばない。ただ、いつもはかなげな微笑を浮かべる亜由美。
時折、切なそうに自分を見る亜由美の視線にも気付いていたがどう話せばいいのかもわからず、
戻ってきてからほとんど言葉も交わしていない。
今は壊さない様にただ、そっと近づいて眺めることしか出来ない。
だが、その人の気配に亜由美が気付く。
「眠れないの?」
今まで見たどんな亜由美とも違うはかなげな表情で亜由美は言う。
その表情に当麻の胸が締め付けられる。亜由美はこんな表情をする少女ではなかった。
少し、と当麻は言葉少なく答える。
「お話、聞いてくれる?」
亜由美が小首をかしげて頼む。
ああ、と当麻は答えて側に座る。
「どこから話したらいいかな・・・」
そう言いながらとつとつと亜遊羅の事を語り始める。
「亜遊羅のお母さんもお父さんの事もあまり覚えていない。覚えているのは大好きな姉様の事と、御祭りと姉様の綺麗な踊り。姉様の舞は本当に綺麗で私はいつもまねをしていたけど、似ても似つかわなかった。運動神経その頃もなかったんだね・・・」
そう言ってしばし舞の音楽を楽しげにとんとんと指で奏でる。
「・・・それから姉様のまわりにいた四人の男の人。一人はそう、当麻にとってもよく似た優しい御兄さんだった。私はその御兄さんがとっても好きでいつも遊んでもらっていた・・・」
懐かしそうに亜由美は当麻を見る。だが、その視線は遠い記憶を見ていた。
「それから記憶は飛んでしまってもう迦遊羅と同じ里にいた。一族のものがどうなったかは知らなかったけど、今ならわかる。たぶん、滅ぼされてしまった。皆、死んでしまった・・・」
亜由美はそう言って目を伏せる。
「迦遊羅の里でジジ様と二人で生活していてすぐに迦遊羅と仲良くなった。うちの一族と迦遊羅の一族は同根だから、御世話になったの。そこでいっぱい遊んでいたずらもした。
私達は本当にそっくりで同じ格好したら皆間違えたぐらい。迦遊羅を連れ去った妖邪兵がよく間違えなかったと思うぐらいね。あの子は本当にかわいくて私のあとをついて回って姉様、姉様って慕ってくれた。私には姉様はいたけれど、妹はいなかったからとってもうれしかった。今も本当に妹の様に思ってる」
亜由美は迦遊羅が眠っている部屋にいとおしそうな視線を向ける。
「でも、そんな楽しい日々はあっというまだった。迦遊羅が妖邪兵に連れて行かれた日、私も切り殺された」
その言葉に黙って聞いていた当麻が驚く。
「里は私の里の様に火が放たれて全滅した。私が事切れる前にジジ様は術をかけた。ジジ様も切られていたから。必死だったのね・・・」
そこで亜由美はいいよどむ。言ってしまって大丈夫だろうかと。
だが、一人でこの事を抱えているのは嫌だった。
誰かにもう一度聞いて欲しかった。それに皆にいずれ言うことになるから言ってしまっても構わない。
「私で血筋が絶えてしまうの。だから、ジジ様は魂だけでも残る様に術をかけた。
時がくれば転生して覚醒する様に。それから覚醒した魂が他の者にならないように未来永劫転生することのないように、と」
当麻が絶句する。
「それは・・・。お前は・・・」
「分かりやすく言うと、もう転生は適わないって事かな? 今度死んだら魂だけになって御仕事をせっせとするの」
ちゃめっけたっぷりに言う。
が、その表情は一瞬で崩れる。
当麻の手に思わず重ねようとした亜由美の手が宙で止まる。ぎゅっと拳を握り締める。
「死んだらもうずっと一人なの・・・。皆が死んでいくのをただじっとみまもるしかできない。私、一人ぼっちになっちゃった・・・」
うつむいた顔からしずくが零れ、当麻の手の上に落ちる。
「怖いよ。当麻。一人だなんて嫌だよ・・・。この地球が滅んでも魂だけになって生き続けなきゃいけないなんて・・・嫌だよ。怖いよ・・・っ」
嗚咽が零れる。とてつもない亜由美の絶望と恐怖が当麻にも伝わる。来る孤独に打ち震える心が伝わる。
「なんで・・・っ。お前がそんな事しなきゃなんないんだっ」
湧き上がった怒りに当麻が声を荒げる。なんでこいつがそんな荷物をせおわなきゃいけない?
こいつはいつも楽しそうに笑って俺達に元気をくれるただの女の子のはずなのに。