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綾瀬しずか
綾瀬しずか
novelistID. 52855
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あゆと当麻~嵐のdestiny~

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”婚約は一種の保険だ。そこまで言えば、向こうのご両親も折れてくれるだろう。無論、お前と彼女が二人っきりで生活するのではないということもはっきりさせておかないといけない。お前の居候先の保護者にお越し願わなければならないな”
しばし、当麻は考え込んでいたが、ため息をつくと頷いた。
「ナスティに電話する。親父は急遽こっちに来てくれ。俺からは到底説明できん」
当麻は一旦、電話を切るとナスティの家にかける。
亜由美が背後から心配そうな顔をしているのを見て当麻は安心させる様に言う。
「なんとかしてやるから、心配すんな」
頭をぐりぐりなでてやるとようやく亜由美はほっとしたような顔をする。
ナスティが出ると、事情を話し、病院の名を告げて来てくれるように頼む。
「ともかく、ナスティの助けが必要なんだ。急いでこっちに来てほしい」
念を押すように頼んで電話を切る。
自分から助けてくれ、といったのは初めてのような気がする。
当麻は電話を切りながら不思議な気持になっていた。
だが、そんな気持ちを当麻はすぐに振り払う。これから一波瀾覚悟しないと行けないかもしれない。
頭が痛い思いだったが、亜由美の怯えた顔を見ているのはつらかった。
なるようになれ、だ。
半ばやけくそになりながら当麻は心の中で呟いた。

当麻の父親が手際良く、弁護士まで用意して事を運んでくれたおかげで当麻は亜由美を
連れてナスティと共に家に戻った。
当麻と一緒にいられる、と聞いた時の亜由美は本当にほっとした様子で当麻も胸をなでおろしたのだった。
一旦、安心したからであろうか、新幹線の中で亜由美とナスティは息投合した。屈託の無い笑顔がこぼれるのを見て当麻はこれでよかったのだ、と自分に言い聞かせていた。
実際、自分が許婚を持ったというのは信じがたい。自分の両親は12の時に離婚している。当麻にとって結婚などとは意味の無いしらがみであった。
それに自分は決して人を愛することはないであろうと踏んでいた。少なくとも恋愛感情を持つとはとうてい思えなかった。
少なくとも親同士での約束という状態で本人同士が将来嫌がれば破棄できる状態にあった。
ともかく今を切り抜けられればなんでもする心境だったのだ。
婚約というしがらみを得た今、別に後悔している訳でもない。
自分にとって亜由美はどこか特別な位置にいる人間であったから少々の事でこまったと言う気はしなかった。むしろ、隣に人がいるという暖かい感覚を当麻は好ましく受け入れ始めていた。
小田原に戻ったところでまた大騒ぎになった。
もう、遼は目覚めていて純をいれた五人が口々に当麻に質問攻めをした。
珍しく征士までが興味深そうに問いかけて当麻は声を上げた。
「あ〜ぁ、もうっ。だから、今、説明したろう? 親戚のこいつは事故で記憶を失って俺とナスティが身元を預かったんだって。婚約は一種の保険。実際に結婚するとは言ってないだろうがっっ。いいかげんに騒がないでくれ。俺はまだあゆに説明することが山ほどあるんだ。俺に仕事をさせてくれっっっ」
一気に言葉を吐く。そこで皆黙るはずだった。・・・が、亜由美の名を告げたとたんまた騒ぎが起こる。
「あゆちゃんって言うのかぁ〜? 俺、秀。秀麗黄。秀って呼んでくれ」
騒ぎに目を丸くしている亜由美に秀が自己紹介を始める。
それを皮切りに当麻に群がっていた皆が今度は亜由美に群がり始める。
始めはびっくりしていた亜由美だが、すぐになじむ。
ついこの間まで怯えきっていたのは一体誰なんだ?
面白くない気持で当麻が心の中で呟く。
皆の自己紹介が終ったところで当麻は強引に亜由美の手を引いてナスティが用意してくれた部屋へ連れていく。
向こうの病院では手続きや何やら忙しくて亜由美に彼女自身の情報を告げるのを忘れていたのだ。
当麻は知っている亜由美の情報を教えてやる。
亜由美の名前や親の名前、家族の名前から始まって亜由美の性格や趣味など知っているかぎりの情報を与える。
亜由美はそれを奇妙な顔つきで聞く。
「お前・・・。自分のことなんだぞ。しっかり聞いてろよ」
仲間にさんざん騒がれてややいらだっていた当麻が不満そうに言うと亜由美がうなだれる。
「ごめんなさい。羽柴さんにご迷惑をかけてしまって・・・」
泣きそうな声で謝る亜由美を当麻は慌てて制する。
「別に俺は迷惑じゃないから。泣かなくていい。徐々に頭にいれていけばいいから。一人でここにいられるか? それだったら俺は皆に騒がないように言い聞かせてくるから」
亜由美はこくん、と頷く。
当麻は立ちあがって亜由美の頭をぐりぐりなでる。
「それから、俺は『羽柴さん』じゃなくて『当麻君』だ。そう呼べと言ったはずだろう?」
「だって・・・。羽柴さん、年上だし」
困った様に亜由美が答える。
記憶を失ってなお、律儀な性格は元のままのようだ。
再会してから亜由美が当麻を当麻君と呼ぶまでに長い時間をかけたことを思い出す。
当麻はふっと笑う。
「慣れるまではいい。けど、いつまでも他人行儀な呼び名はやめてくれよ」
「はい」
馬鹿丁寧に亜由美が答えて当麻がしょうがないなぁ、と言った風に笑う。
「ともかく。連中をなだめてくる。あとでな」
当麻はもう一度亜由美の頭をくしゃっと撫で回すと部屋を出ていく。
ベッドに横になりながら、亜由美は走りぬけていったここ数日を思い出す。
心細くて怖くて戸惑っていた自分をずっと安心させるように言葉をかけてくれた当麻。
周りが周り、全部怖かったのに、当麻だけは怖いと思わなかった。
もしかして記憶を失う前の自分は当麻のことを好きだったのではないだろうか?
そんな事を思いながら亜由美はまぶたを閉じる。
ひたひたと安心感が体の中に押し寄せてくる。
「当麻君・・・か」
ぽつりと呟いて亜由美は襲ってきた眠気に身を任せた。

運命、というものがあるのなら、亜由美と当麻の運命は今、まさに本格的に動き出そうとしていた。