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綾瀬しずか
綾瀬しずか
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あゆと当麻~嵐のdestiny~

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第二話嵐のdestiny 名前の法則





亜由美はナスティ達とすぐに息投合した。もともとひとなつっこい人格である。育った環境がものをいってなかなか人見知りの激しい女の子だったが、性格を作り上げた過去の縛めから解かれた亜由美はこの上なく無邪気に明るく振舞った。ここではまったく新しい人間関係を作ればいいのであって亜由美も気兼ねが要らなかった。関西の病院で両親が見せた悲しい顔やもどかしい表情に悩まされることもなかったからである。
そして亜由美は孤立がちだった当麻につきまとった。
どうしても初対面の気がしない上に、当麻の前だとひどく素直になれるのだ。当麻以外の前だとついつい敬語になるのだが、当麻の前だと敬語にならない。自然とそういう口調になっていて自分でも驚いているぐらいだ。
それに自分のわがままで許婚にまでなったというのに不満そうな顔一つ見せないで、事あるごとに亜由美に不器用にも優しく接してくれる当麻が亜由美は一番好きだった。
そして今日も当麻につきまとう。
「羽柴さん。羽柴さん〜。お散歩いこ〜。白炎君と純君も一緒に行くんだよ」
サブリビングでのんきにいつものように一人、読書を楽しんでいる当麻の手から本を取り上げる。
「お前、前から言ってるだろう? せめて『当麻君』と呼べ。記憶を失う前でさえ、一番最初は『羽柴先輩』だったんだぞ」
不満そうに当麻が言う。どういうわけだか、当麻は呼び名にこだわる。
「だって。羽柴さんは年上だもん。純君みたいにお兄ちゃんて呼んだらすっごくいやがったじゃない」
当たり前だ、と当麻は立ちあがりながら答える。
「お前にお兄ちゃん扱いなんぞされたくない。ただでさえ、年食ってる気がするのに、これ以上年を食いたくは無い」
「少年老いやすく、学なり難し」
同じくサブリビングで新聞を読んでいた征士が突っ込む。
亜由美がぷっと吹き出す。
「ほら。征士さんの言うとおり。お部屋にこもっていると早く老けるよ?」
楽しそうに瞳をきらめかせて亜由美は当麻の腕を引っ張る。
その表情を当麻は満足そうに見る。少なくとも敬語で話されない分だけまだましというもの。一向に記憶を戻さない亜由美に時折、もどかしい苛立ちを覚えるものの、屈託の無い亜由美を見ているとそんな気持もどこかへ飛んでいってしまう。
笑顔を見るだけでうれしくなってしまう自分がいる。亜由美の無邪気な笑顔は当麻達の疲れた心を元気付けていた。またナスティの慈しむような微笑みが彼らを癒しているのも事実である。
当麻は亜由美のその無邪気で陽光のように輝いている亜由美の笑顔が一番好きだった。この笑顔を守るためなら、とふっと思うぐらいだ。自分らしくない発想と思うのだが。
「わかったから。手を引っ張るなって」
笑みを浮かべながら当麻は引っ張られていく。
メインリビングへ出るとしっかりテラスに当麻と亜由美の靴が出ている。
白炎と純はすでにテラスから外へ出ていて、元気に追いかけっこをしている。
「私も仲間に入れてくださいなっ♪」
亜由美が靴をはいて純と一緒に追いかけっこを始める。
「こけるなよ」
当麻はその後ろを歩きながら注意する。
二人と一匹は庭からその外へ飛び出していく。
当麻がそれを微笑ましく見守りながら着いていく。

いつから自分はこんなに笑うようになったのだろうか?、と当麻は歩きながら笑みを浮かべている口に手をやる。
亜由美がいると自然と笑みがこぼれてしまうのだ。
それに前よりも孤立することが少なくなっていた。
あるとき、当麻がいつものように天上天下唯我独尊的態度に出たとき、亜由美が激しく怒ったのだ。
言い争いになっていつものように当麻がその場を去ろうとすると亜由美が当麻の腕をむんずとひっぱって皆の方に向かせたのだ。
「今のは羽柴さんが悪いっ。ちゃんと皆に謝ってっ」
いつもはべったり当麻にくっついて甘えている亜由美が当麻を激しく非難したのでその場の人間は皆驚いた。そもそも亜由美には迷惑はまったくかかっていないし、言い争いにも加わっていないのだ。
亜由美は始め激しく声を荒げたが一旦言葉を切ると静かな声で話し出した。
「羽柴さんほどの頭を持った人間ならどれが悪くてどれが正しいかということぐらいわかるはずでしょう? 分からなかったら一回、筋道立てて考えて。人の意見を聞いて尊重して判断を下すのも智将の役目でしょう?」
 亜由美はそこで一旦区切りる。まるで言ったことを整理するかのように。そして言う。
「なんで今、こうなっているかわかるよね?」
亜由美が促すと当麻もしぶしぶ頷く。
「だったら、ちゃんと謝ろうよ。そしたら皆許してくれるよ? 気がつかないことで悪い事をしてしまうのはしかたがない。けれど、気付いたらちゃんと謝ろうよ。それで次から気をつければいいから。忘れちゃっても何度も、チャレンジしたらいいでしょう? 失敗したってここの誰も羽柴さんを悪く言わないよ?」
亜由美の怒りの含んだ静かな声は次第に優しい声になっていって当麻も体の力を抜いて立っていた。
いらだっていた気持が不思議と落ち着いてくる。
「ほら、謝って。私も謝るから。ね? ごめんなさい」
亜由美が皆に頭を下げ、当麻も決まり悪そうに謝る。
「悪かった。以後、気をつける」
言った先から亜由美が訂正する。
「ごめんなさい、でしょう? ほら、ごめんなさいって言って」
当麻がもごもご言う。
「聞こえないよ?」
亜由美が促すように当麻の背中を軽くたたく。
「ごめんなさいっ。悪かったっ。以後気をつけますっ」
真っ赤な顔で当麻は叫ぶと今度は流石に自室に逃げ帰った。
今度は手を掴まれなかった。
それ以後、当麻はどうも亜由美に頭が上がらなくなっていた。
普段は自分のほうがおっちょこちょいで失敗ばかりしているのに、いざとなったらとてつもなく賢い女性に代わってしまう。何か事を起こすたびに亜由美が当麻を促し、当麻も次第に謝罪の言葉がすんなり出るようになった。もちろん、それ以後同じ間違いはひとつとして起こしていない。謝罪は心からしなくてはならない、と亜由美が口をすっぱくして言うからだ。それはやってしまった悪いことを繰り返さぬ様に努力することだ、と亜由美は言ったのだ。それでも失敗してしまったときは素直に謝ってまた一からやり直せばいい、と亜由美は言った。そのやり直せばいい、という言葉が当麻をほっとさせた。いつでも自分は完膚なきまでに一つのミステイクも許さない状況に自分を追いこんでいた。それが努力してだめだったらしかたないのだ、と言われて肩の力が少し抜けたのだ。もちろん、戦いにおいてそれは通用しない。それは亜由美もよくわかっていた。
「でも、人との生活って失敗してやり直してまた失敗してって何度も繰り返すんだよ」
亜由美はいつしかぽつり、と言った。
その言葉は記憶を失った亜由美自身をも指していたのかもしれない、と当麻は思った。
その時ばかりは亜由美がやや悲しそうに見えたのだ。家族から逃げるようにして出てきた自分を責めていたのかもしれない。
いつも屈託の無い亜由美だったがさすがに自分の身分を思い出すとそうはいかないようだった。

「白炎君。お水に浸かったらだめでしょう?」
二人と一匹は飽きもせずに追いかけっこを楽しんでいる。