明日にはヒーロー
一瞬、何が起こったのかわからなかった。
伊達にいくつもの形状の違う公共物を投げているわけではない。俺は自分の制球(いや、制「物」か?)力に自信を持っていた。小さい頃はそれこそ野球選手にでもなれるのではないかと夢見たほどだ。(なのに今まで俺の投げつけたブツが例の世をはばかる害虫に当たらなかったのは、腹のたつことに奴がそれをよけられるほどすばしっこかったからである。当たったことは数少なくとも俺の放ったブツは奴が『一瞬前にいた』ところを通過、又は着地はしている)
ところが俺の手から離れた赤い公共物はつるりとすっぽぬけ、ノミ蟲とは見当違いの方向へすっ飛んでいっていった。
予想外すぎる出来事に俺は呆気にとられてぽかんと口を開け、放射線を描く赤い物体を眺め見た。BGMのように奴の不快な笑い声が木霊し、やがて遠のいていく。ソレは雨が降って少しはマシなったような池袋の空を綺麗に舞って、そして、俺達を避けて端を歩いていた一般人の群れへ飛び込んで行った。
「・・・・っ!」
状況に気付いたらしい誰かの悲鳴が聞こえたと同時に俺は走り出した。金切声に負けないように俺も叫ぶ。「あぶねぇ、避けろぉ!」色とりどりの服が俺の前で散り散りに逃げて行く。人の波が割れて道が出来て行く。まだブツは追突はしていないらしい。「どけっつってんだろ!」走る。雨に濡れたコンクリを足で蹴り、馬鹿みたいに前だけを見て走る。やがて人の群れが完全に避けた。安心する。人にぶつからないならまだ大丈夫だろうと速度を緩める。しかしそれは間違いだった。
「・・・・・・・あ?」
人が、いた。
混乱する。先程まではいなかった、ような。目をこすれど姿は・・消えた?もう一度こする。いや、いた。確かにそこにいた。幽霊じゃないのかと頭の中で黒いライダースーツに身を包んだ友人がぶるぶると震えたが、それを無視してひたすら回転する脚にターボをかけた。「退けえええええ!!」本当に幽霊だったらタイミングが悪かったなとノミ蟲を逃がしたのも込めてぶちのめしてやろうと拳を握、らずにその手を左右交互に前に繰り出す。幽霊もどきはこちらに気付かず前を見て歩いている。随分な飛行距離を達成した公共物はそろそろ着陸態勢に入っていた。
今まで何度もノミ蟲潰しストーリーを描いてきた俺の頭が十五秒後の未来予想図を弾きだす。
「っ・・・くっそがあああああああ!!!!」