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EL高校の一年間 新学期・入学式編

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 二人の会話に入ったフクロウとクマドリも、ジャブラと同じ結論を導き出した。仲間が増えて、スパンダムは嬉しそう。
「だろ、だろ! あいつ、ホントに試験合格したのか? こないだ道場で会ったときは、『来週の入学式で名前呼ばれるから、ぜひ聞いてほしいっしょ!』とかなんとか言ってたくせによ」
「おれも聞いたぜ、その話」ジャブラはババ抜きでもしたいのか、机の周りに集まってきた仲間たちにカードを配りながら一笑した。
「なんだ、あいつ嘘ついたのか、ぎゃはは!」
「嘘つき狼のセリフではないぞー」
「なんだとフクロウ!」
 楽しそうなスパンダムたちを尻目に、カリファは真実を語ることを諦めた。そりゃそうでしょうよ、あなたたち、途中からぐっすり眠ってたんだから!
 なぜか疲れたカリファは、ルッチとカクの席を交互に見た。そこには空気があるだけで、誰も座っていなかった。
 数十分前、新入生が退場したすぐあとに、在校生も体育館を出た。そのまままっすぐ帰り、スパンダムも無事、迷うことなく教室に行き着いたばかりである。しかしそのあと、ルッチとカクは「用がある」と言い残して教室を剃で出て行った。六人が取り残されてからおよそ二十分。二人はどこまで行ったのだろうか。用足しだとしても遅すぎる。
 いや、心当りはないこともない。でも、あまりに背筋の凍る考えなので、そのまま放置していたのだ。でもあの、道場ナンバーワンとナンバーツーなら、しかも彼を嫌っているなら、充分にあり得ることだ。カリファは胸騒ぎが収まらなかった。
 居ても立ってもいられない。
「……私、少し外へ出てくるわ」
 カリファは音もなく立ち上がり、他の者の返事を待つことなく、驚異のスピードで教室から消えた。あまりにも速かったので、ババ抜きに夢中のスパンダムたちが気づかなかったほどである。
 その直後、彼女はひとりの男を脇に抱えて、教室に舞い戻ってきた。そいつは、三年間使い古された雑巾のようにぼろぼろだった。保健委員であるブルーノは、文庫本から顔を上げ、ぎょっとした目つきでカリファの脇を見つめた。
 カリファは優しい口調で、左腕の男に話しかけた。
「ネロ、大丈夫だった?」
「平気っしょ、カリファさん……」
 強がりを言う彼は、噂のネロ。入学式のとき、ルッチとカクが一方的に敵視し、カリファの手を煩わせた張本人である。その名前を耳にした途端、スパンダムはトランプをほっぽり投げて、ネロの側へ駆けてきた。
「よお、ネロ! やっぱりここの生徒になってたか。おれはおまえを信じていたぞ」
 どこのどなたのセリフかしら? カリファの胸の内で放たれたツッコミは、もちろんスパンダムに届いていない。
 スパンダムの言葉を聞いて、ババ抜きを楽しんでいたメンバーもわらわらと集まってくる。
「おいおいネロ! いったい何事だ!」
「ネロが雑巾になっているぞー」
「ネロじゃあねェかァ~!」
 一斉に名前を呼ばれて、ネロは困惑気味だ。四人をたしなめ、カリファはブルーノを呼びつけた。保健委員のブルーノは、いつも机の側に救急箱を常備している。ネロの治療はブルーノの席でおこなわれている。
 それを和やかに眺めていたカリファ。スパンダムらはもう興味を失ったのか、ババ抜きに戻ってしまった。
 和気あいあいとした雰囲気の二年三組。そのムードは、二人の男によって一気にかき消されたのだった。言うまでもなく、後輩いじめをしていたルッチとカクである。彼らはドアの前で佇むカリファの後ろに、音なく歩み寄った。それに気づかないカリファではない。
「あら、セクハラよ。ルッチ、カク」
 鋭い目つきで二人の目の玉を見据えたが、目つきの悪さではルッチのほうが格上であることは間違いない。ルッチはカリファを睨み返した。
「カリファ、あんな奴の見方をする必要はないぞ」
「そうじゃ、そうじゃ」丸っこい目のカクも、目を吊り上がらせている。
「所詮は四式野郎じゃ。ブルーノも、やらなくてもいいのに……」
 二人の辛辣で率直な言葉に、カリファは不快感を隠し切れない。先生たちもさっさと停学にしてしまえばいいのに、とは言わずに、カリファはなるべく穏便に事を済ませようと頑張ってみた。
「二人共、そんなこと言うものじゃないわ。先輩でしょ」
「こいつの先輩じゃと?」
「フフ……おれは四式坊やに知り合いはない」
 先輩たちに散々悪口を言われている四式坊やは、ブルーノの治療を受けながら若干の悲鳴をあげている。その様子にルッチとカクは「やはり四式だな」「なっとらんのう」などと意見を交わし合った。
 この三人の激戦が収まるのはいつになるのか、カリファは不安で仕方がない。