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EL高校の一年間 新学期・入学式編

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二年三組の部活動


 時刻は午後一時。腹の虫がやかましく音を立てていた四時間目が終わり、待ちに待った昼休みである。三組メンバーたちも、みんなそれぞれに食事を広げていた。
 八人という異例の少人数であるこのクラスだが、必ずしも全員仲が良いわけではない。イニシャルJはLと敵対し、SはCに遊ばれる、という複雑な人間関係が構築されている。だからといって独りぼっちで食事をするのは寂しいものだ。よって、今日も八人は机を合わせる。しかたなく、という者も少なくないのだが。
 そのひとりであるロブ・ルッチは、学生食堂のあんパン争奪戦に見事勝利し、普段どおり無表情のまま教室のドアをくぐった。それに茶々を入れる者が約一名――
「ルッチ、またおまえは食堂のパンか。寂しい奴だな、ぎゃはは!」
 わざわざ椅子から立ち上がってまでして大笑いする男は、もちろんジャブラ。JとLは、共に相容れない関係である。そのジャブラは、手に弁当箱を持っている。
「キサマは弁当か。どこのコンビニで買った?」
「違う! これは、おれが今朝早く起きて、自分で作ったものだ」
「え!?」
 最後の驚きの声は、ルッチではない。机をくっつけて食事体勢に入ろうとしている、同級生たちだった。名指すと、カク、カリファ、ブルーノ、フクロウ、クマドリ、スパンダムである。みんな、普段では決してしないほど愕然とした表情を見せている。
 その目が自分に注がれていることを知ったジャブラは、慌てて弁当を背中に隠した。
「な、なんだよ! くれって言ってもやらねえぞ!」
「い、いや、そういうわけじゃない、ジャブラ」
 カクは顔を引きつらせたまま、なんとか言葉を発した。
「おまえが料理などできたことに、驚いておるんじゃ」
 他の同級生も、同意して頷く。ハットリも「クルッポー」、ファンクフリードも「パオーン」と良いお返事。
「おい、おれはそんなになめられていたのか! 料理ぐらいできらあ、見ろ!」
 ジャブラは椅子に座り直し、チョウチョ結びをほどいた。いつもながら質素な弁当箱の蓋を開けると、色とりどりの食べ物が姿を現した。それに見入る、三組全員。
「うおーッ、おめえ、すげえな!」
「チャパパー、すごいのだー」
「あ、美味そうじゃねェ~か~!」
 くいだおれ人形のように手を叩くスパンダム。思わず舞いそうになるクマドリ。人形のような無表情で褒めるフクロウ。いつもジャブラとつるむことが多い彼らは、素直に仲間の功績を称えている。
 一方、いつでもクールなルッチ、カク、ブルーノ、カリファは、最初は驚きはしたものの、その後一瞬で、ジャブラの『犯行』を見破った。隠れた真相を最初に口にしたのは、ブルーノだった。
「ジャブラ……そのおかずは、この間『花マート』で買っていた冷凍食品と瓜二つだな」
「い!?」
 ジャブラは即座に表情を変え、ブルーノの目を見据えた。冷たい目だ。
「パッケージの写真と同じだ」
「…………」
 反論できず、床に視線を落とすジャブラ。どうやら、ブルーノの勝ちのようだ。
 そうとわかったスパンダムたちは、一瞬で態度を改めた。
「そうなのか!? おいジャブラ、びっくりして損したぞ!」
「やっぱり嘘つきなのだー」
「よよいっ、事実に反することをォオ~言うんじゃねえェ~!」
 それぞれ、キャラ立ちまくりの怒声を投げつけた。それに対抗するジャブラは、声を張りあげた。
「うるせえな! 飯とたまご焼きはおれの手作りだぞ!」
「そのたまご焼きは、おれの店が昨日、キャンペーンで配っていたものだな。今日まで保つとは、大したものだ」
 食堂経営者の息子であるブルーノのカミングアウトは、ついにスパンダムたちの怒りを頂点まで連れていった。
「このやろー!」
「紙絵」
 スパンダムの鉄拳は、虚しく空気を殴っただけだった。ゼロ式使いが、六式使いに歯向かうべきではない。しかも彼は、このあと足を崩して、隣のカリファに向かって転倒。「セクハラです」の言葉と共に紙絵をした彼女にぶつかることなく、派手な音を立てて床にのめり込んだ。それに加えて、自分の高級弁当まで頭にぶちまけるという喜劇、いや、悲劇が繰り広げられた。
 まあ、これはいつものこと。スパンダムの不運はエベレスト級だ。ルッチは無視して席につき、優雅な食事が再開された。

 大惨事のスパンダムは、普段の凶運のおかげで身体が慣れていたらしく、ブルーノの持つ絆創膏をひとつ貼るだけで机に戻った。しばらくは、静かな昼休みが保たれる。
 しかし、その静寂を破る者がひとり。教室のドアが勢い良く開き、葉巻をくわえた男が中に入ってきた。彼は力強く渋い声で、
「ロブ・ルッチ、これからすぐに陸上部の会議を行う。来い!」
「……はい」
 いきなり名前を呼ばれたルッチはしぶしぶ立ち上がり、男のあとについていった。残されたメンバーは、その様子を尻目にひそひそ話を始めた。
「なんだ? 化け猫の奴」
「あのひとは、陸上部顧問のスモーカー先生よ」
「かなりしごかれるという噂じゃぞ。あそこに入るのは、よほどの物好きかマゾヒストか、先生のファンかルッチのファンかたしぎマネージャーのファンか……」
 ルッチは被虐待嗜好性ではないだろう。どちらかというとサディストだ。マネージャーのファンでもスモーカーのファンでもないだろう。七人は考え込んだ。なぜ、ルッチが陸上部に入部したのか。
 でも、そんなことは本人に聞かないかぎりわかりえないことだ。フクロウも、その手の噂を聞いたことはないらしい。彼らは早々に諦めたが、部活動の話は終わらなかった。
 ジャブラがブルーノに質問したのだ。
「そういえば、おまえはどうして料理部に入ったんだ?」
「それもそうね」
 カリファが彼の疑問を請け負った。
「店も忙しいんじゃないの?」
 ブルーノの家は大衆食堂を経営しており、ブルーノもそれを手伝っている。店は繁盛しており、たまご焼き無料配布サービスもできるほどだ。
 店の場所――つまりブルーノの自宅は、スパンダム以外の全員が知っている。彼に来られたら、面倒なことになりかねない。スパンダムは毎日毎日「おれにも場所教えろ!」と口を酸っぱくしているが、教えるつもりは毛頭ない。
 ブルーノは箸を口に運びながら、話をした。
「おれは料理の腕を極めるために、料理部に入部しているんだ。活動は週に一度、無理なことはない」
「へえ……」スパンダム以外の全員がうなった。
「すごいぞー、だからあそこまで美味いのかー、チャパパー」
「おいらもォ~、今度お邪魔してもいいかァ~!」
 フクロウとクマドリの発言に、ブルーノは頭を上下に振った。牛の角のように見える髪型も、優しく揺れる。
「いいぞ、いつでも食べに来い」
「いいな! じゃあ今度、『扉根性(どこんじょう)』で宴会だあ!」
 ブルーノの了承に、ひとり盛り上がるスパンダム。だがひとつ、彼の言葉におかしな点が……。カリファがそれを指摘した。
「スパンダムさん、なぜブルーノの店の名前をご存知で?」
「おれが教えてしまったー、チャパパー」
「何だと?」
 ブルーノが、のんきなフクロウをきりりと睨む。その眼差しは、「なぜスパンダムさんにおれの店の名前を教えた! 場所を突き止められるだろうが!」と物語っていた。