これはもしもの話です。
「頭、打ってない?」そっと手を頭の裏に差し込まれるとさらに彼の顔が近くなる。
絡み合った視線に僕は不思議な感じがした。
あれ?彼はこんなに『男』の目をしてたっけ。
触れてしまったのは一瞬だったけれど、瞬間的に取り返しがつかないと思った。
彼が少しの間を置いて「・・・帝人さん?」なんて呼ぶから、何も取り繕えなかった。
何もなかったことにする技術もなくて、僕の方が大人なのになんて情けない。
彼を押し退けて、僕は逃げてしまった。
作品名:これはもしもの話です。 作家名:阿古屋珠