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さらさらみさ
さらさらみさ
novelistID. 1747
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ビューティーオブファシナトゥール

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「お、いいなあ、それ。俺もブルーの歌聞きたいなあ」
「−…仕方ないな。じゃあ、ケーキがちゃんとできてからにしよう」
ブルーの答えに、3人は歓声を上げた。

術士としてではなく、一人の「仲間」として、自分を必要としてくれる彼ら。
あの地獄の日々、執拗に自分を追い求めた、同じ顔をしたあの男の存在が、日に日に彼らのお蔭で薄まりつつある。まるで、午後の日差しの中で見る白昼夢のように。


「そういえばテレビで今、面白い番組やってるんだって。隣のエミリアたちが言ってたよ。観てみようよ」
エミリアたちというのは、クーロンから来た女性団体客である。都会から田舎に出てくつろぐのが最近のトレンドなのだそうだ。
「へえ〜、じゃあちょっと見てみるか」

4人はリビングに集まり、テレビのスイッチを入れた。
「ビューティー・オブ・ファシナトゥールの次の審査は、歌審査です!!」
「歌審査か…」
「俺も出たかったなあ〜」
「これって妖魔の大会なんだって。すごいねえ」

画面では、ニプレスを着けた派手な妖魔が何か喋っている。
”エントリーナンバー7番、ラスタバンさん、ありがとうございました〜!!いやー薔薇は美しく散る、いい言葉だね!次は、エントリーナンバー8番、ブルーさんだよ!!”
「ブルー?」
司会者の言葉に、彼らは一瞬言葉を失った。
「同じ名前の妖魔がいるんじゃないか〜?」とリュートが言い、3人は納得したが、次に画面に現れた男を見て、今度こそ彼らは完全に言葉を失った。


画面に映ったその男は、長い金髪をポニーテールに結い、アイスブルーの瞳はどこまでも冷たい。青い、膝丈の修士の法衣を纏っている。
”ブルーです”
男はカメラを見、それから口の端を上げて皮肉な笑みを見せた。
「こ…こいつって…」
「ブルー!?」

ブラウン管の中の「ブルー」は、ゾズマの手からマイクをひったくった。
”実は今まで隠していたが、俺は人間だ。人間でありながら、この大会に参加した”
会場から一斉にブーイングが上がる。画面が変わり、「しばらくお待ち下さい」と表示された。
テレビの前で4人は信じられずに画面を食い入るように見つめている。
「なあこれって、生放送だよな?」
「新聞ニハ、ライブ生中継ト表記シテアリマス。デスガ身体的特徴、声帯ノ音波、全テぶるー様ノモノト一致シマス」
「じゃあ、この人は一体誰なの〜?」

3人があれこれ言い合っているそばで、ブルーは、今までの暖かい生活が、一瞬にして崩壊していくのを感じていた。 ブルーだけにはわかっていた。あいつは双子の片割れのルージュであると。ヤツは消滅などしなかったのだ。

画面が元に戻り、ゾズマがスペアのマイクを持ってアナウンスした。
「え〜っと、異例中の異例なんだけど、どうやら何か伝えたいことがあるから彼は大会に参加したんだって。というわけで、審査員長から一言」
アセルスがすっくと立ちあがった。
「3分間だけ待ってやる!!」
それだけ言ってアセルスは座った。
ブルーは、バルス、と彼らに言い―言葉の意味から察するにほとんど逆ギレである―、再びカメラに向き直る。

「俺がこの大会に参加したのは、愛する双子の弟を探すためだ。…ルージュ、見ているか?俺だ、お前の最愛の双子の兄ブルーだ。あの日、俺たちはようやく一つになれたのに、運命が再び俺たちを別たってしまった―…」
ゾズマはいい話だねえ、とうんうん頷いているが、聴衆の大半はドン引きしていた。イルドゥンもドゥン引きしていた。

ブルーは、せつなさを湛えた瞳で画面を見た。伴奏が流れはじめる。
「ルージュ、お前にもう一度遭いたい。聞いているか、ルージュ?俺の声を。観ているか?ルージュ。俺の姿を。
お前が、この世界のどこかでこの放送を観ている事を願い、俺はこの歌をお前に贈ろう。もう一度、俺たちがひとつになれるようにー…」

ブルーはマイクを握り、いい声で歌い上げる。
「♪う〜〜すべ〜に〜い〜ろのおお〜、かわ〜いい〜き〜み〜のね〜〜」

ついに隣家から「ブルーきんもーっ☆」というエミリア達の声が聞こえてきた。続いてアニーだかライザだかが、「ちょっとやめてよぉ、あたしこの歌好きなのに〜!」と叫んでいた。
「ブルー、歌うまいね」
クーンが感心しているが、そういう問題ではない。
ブルーは否定したかったが、画面に映っているのはどう見ても自分と同じ人間である。ルージュの事もどう説明したらいいのかブルーにはわからない。説明したらしたで、変態の烙印を押されてしまうかもしれない。

テレビの前で呆然と立ちすくむブルーの後ろで、3人は相談をはじめた。
「モシカシテ、ココニイルノガるーじゅナノデハ?」
「そうかもしれないな〜。双子の兄から逃げようとして、ブルーに変装してるのかも」
「そういえば、ルージュは優しい性格なんだって聞いた事あるよ」
「だよな…おかしいと思ってたんだよ、あの冷酷なブルーが、こんなに丸くなるなんてさ…」
3人は頷きあった。そして放心しているブルーに歩み寄る。

「早く兄さんの元に帰ってやれよ」
「だから違うというのに!!!」

会場では、「ハナミズキ」を歌い終わったブルーが、スタッフの黒騎士たちに引き摺られていくところだった。
「ルージュ!!必ずお前を探しにいくぞ、ジュテーム、ルーーーージューーーー!!!!!!!」
またしても、「ブルーまじきんもーっ☆」というエミリア達の声が隣家から聞こえてきた。
ブルーはただ、偽りの女神め…と呟くしかなかった。

 

 

「ものすごいヒューマンドラマだったね!こんなハプニングも、B.O.Fにはつきものさ!じゃあ、気を取りなおして次いってみよう!エントリーナンバー10番、サイレンスさーん!」
サイレンスは舞台に出た。しかし、その顔からは血の気が引いている。もともと青白い肌が更に白くなっているのだ。
「なあ、これ歌審査だろ?やばいんじゃねえか?」
控え室で実況中継を見守っていたIRPOの同僚メンバーも、同じように考えていた。もうだめだ、と。
「サイレンスって、本当に声が出ないんですか?」レンがヒューズに尋ねる。
「さあなあ。けど、あいつが入隊してから一度も声聞いた事ないのはほんとだぜ」
「まずいわね…失格になるわ」
3人と1匹と1機は、心配そうに画面を見つめた。
サイレンスは困り果てていた。出場辞退をしようとすると、スタッフの黒騎士が誰一人見当たらないのだ。先ほどのブルーが、連行される途中で逃げ出してしまったかららしい。結局、辞退もできないままステージに上がってしまった。

実は、サイレンスは声が出せないわけではない。ただ、自分で自分には声帯がないと思い込んでいるだけなのだ。妖魔の思い込みというのは、思念体であるだけあって人の数百から数万倍の強さである。まして歌など、デビルテンタクラーにワルツを踊らせるようなものだ。
「サイレンスさん、どうぞ〜!あれ、あがっちゃってるのかな?」
ゾズマが陽気に話しかけるが、サイレンスは首を横に振るしかない。

「どうしたのかしら…彼の実力はあんなものじゃないはずよ」
ラスタバンが舞台の袖で呟く。すっかり主人公側に寝返った元ライバルのポジションである。