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【再投稿】 渡り歩く理由は

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 今吉が合宿に向かった翌日。今吉とは丸一日会えない日だった。電波は通じないと聞いていたのに、昨晩に電話が掛かってきた。夜の買い出しのために街中まで出掛けたのだと。その短い時間でわざわざ電話を掛けてくるのだから、花宮に対しての執念は恐ろしい。
 今夜もなにかと理由をつけて抜け出し、電話を掛けてくることなんて簡単に予想がついた。けれど、今晩はその電話が繋がることはないだろう。
「花宮!」
 着信履歴の残るスマートフォンから目を離して呼び声のする方へ向けば、同年代の男が手を振っていた。
 爽やかそうな見た目の男は、花宮よりも身長が低いものの男性の平均は越えている。やや身体の線は細いが、地黒で整った目鼻立ちはどう見てもイケメン。
「どうも」
 会釈と共に挨拶をすれば、男は満足そうな表情を浮かべる。
「まさか、花宮の方から誘ってくれるなんて思ってもなかったよ」
 すっ、と頬に伸ばされた手をさりげなく避ける。半歩下がったせいで出来たわずかな距離に男は首を傾げた。
「花宮……?」
「今は人前なので。……早く、二人きりになれる場所へ行きませんか?」
 花宮が自分より身長の低い男に上目遣いをして分かりやすいように誘えば、男が陥落するのは一瞬だった。

 男同士で入れるホテルの数は多くない。それでも、見つけたいくつかのホテルをローテーションで訪れるようにしていた。たまに、相手に案内されることもあったが、そんなことはごく稀だ。
 選んだ部屋は、アンティーク調の家具でまとめられ、木製の重厚なダブルベッドがある。この部屋に男二人は似合わないが、それ以上に透明なガラスで透けて見えるバスルームはもっと異質な空気を放っていた。
 透けたバスルームで、過去に一人でシャワーを浴びているところを観察されていたこともあったかと思い出す。あのときの男は、本当に変態もいいところだったと思い出し、気分が悪くなる。
 部屋の内装に気を取られていれば、ふと後ろから抱きつかれて、少し足りない身長で肩口に額をつけられる。
「俺、花宮と出来るなんて夢みたいだ」
「死ぬ覚悟までしてくれたなら、応えますよ。ただ、」
 一度きりですけど、と念を押すように告げれば言葉は反ってこなかった。その代わり、花宮を抱きしめる腕の力が強まる。
 こうやって、過去の男は一度きりを拒否して、花宮を抱いているうちに次を期待していく。けれど、花宮は今吉以外に二度抱かれることはなかった。そして、この男もそうなるだろう。
「……シャワー、浴びますか?」
 男の否定を気にも留めない素振りで言う。
 こうして、花宮はたった一度きりになるこの男との夜を存分に楽しむことにした。