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【再投稿】 渡り歩く理由は

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 いってぇ。
 全身のだるさと腰と背中と両手足の痛みを堪えながら、花宮はアパートまでの道を歩いていた。
 昨晩の相手は随分と嗜虐趣味のある男のようで、きつく縛られた挙げ句、鞭まで持ち出したのだからたまったものではなかった。
 花宮自身に被虐趣味などなく、いっそ萎えるだけだった昨晩の行為だったが、男は無理矢理突っ込んで一人でお楽しみだった。
 花宮が目が覚めたタイミングで寝こけている男を置いて勝手に帰ったが、男からの音沙汰は未だにない。もう半日以上経っているのに、だ。
 普段ならいつものことだと気にしないところだが、このタイミングですら連絡を寄越せる状態にない事実に驚くしかない。
 早番のバイトを終えて帰宅すれば、そこに身体を丸めるようにしゃがんでいる男が一人。
「花宮ー」
 自分の部屋が目前というとき、伸ばされた手で囲うように抱きつかれた。同じくらいの身長の男に。
「鬱陶しいので離してくれませんかね、今吉さん」
 抱きつかれていることを意にも介さず、花宮は今吉を引きずるように歩き続けた。周りに人はいないものの、いたとしたって視線は今さら気にしていない。
「まこちゃんってば、久しぶりに会えた恋人に辛辣過ぎるわ。翔一くん泣いちゃう」
 花宮の肩に顔を埋め、泣き真似をする今吉に花宮は嘆息を吐く。その男は、研究室の合宿という名目で今日の夜まで帰って来るはずではなかったか。
 こんな鬱陶しくて面倒くさく、人の嫌がることが得意な男の恋人など、普通の人間ならたまったものではないはずで、よく付き合っていられると花宮は自分で自分を褒めた。
 花宮はポケットから鍵を取り出して開ける。
「勝手に泣いてください。俺を巻き込まないところで」
「ひどっ! せっかく予定繰り上げて早めに帰ってきたのに」
「ああ、だからこんなに早いんですね」
 家のドアを開けて、今吉を振り払おうとするが、なかなか落とせない。しぶとい男だ。
部屋の中に入れば、背後からぎゅうと抱き締められる。同じくらいの高さにある顔を頬擦りするかのようにくっつけてくる。
 部屋の匂いよりも、今吉の匂いが勝っていた。
「ずーっと花宮に会いとうてしゃーなかったんやもん」
 電気を着けていない薄暗がりの中、甘さを含んだ声で今吉は訴えかける。その辺の女ならそれだけで落とされそうな状況に、花宮は鼻で笑い返した。
「ふはっ」
 その言葉がどこまで本心なのか花宮には分からなかったが、事実とは異なることだけはわかっていた。
「俺より先に他の男のところへ行ってたくせに、よくそんなことが言えますよね」
 ふいに緩んだ包容から花宮はするりと抜け出す。
 振り返れば、今吉は後悔するような気まずいような、苦い表情をしていた。
「ん、それは反省しとる。ワシかて、花宮に一番に会いたかったで。けど、二度とおイタせんように釘刺しとかなあかんやろ?」
 言い放つ言葉とその表情に反省の色は含まれていない。
 花宮が男と寝れば、翌日からその男からの音沙汰がなくなっていた。まったくと言っていいほどに。

 はじめのきっかけは中学三年のときだった。既に恋人として付き合い始めていた今吉と同学年だった中学の先輩が遊びに来ていた日。
 一応、知り合いだからと愛想よくしていたのが間違いだった。人気のない体育館裏に連れて来られたと思えば、今まで好きだったと言われて無理矢理唇を奪われた。逃げ出すにも、相手も高校で運動部に入り身体を鍛えているために簡単には叶わない。服を脱がされそうになったところで、タイミングよく現れた今吉に助けられた。気まぐれで今吉にその先輩が来ていることを連絡していた自分を褒める。目の前で男をボコボコにする今吉を、花宮は傍目からまるで他人事のように見ていた。その場で守られた貞操も、その日のうちに今吉に奪われたのは苦い思い出だった。
 二度目は、一度目のインターハイが終わってからだった。今吉とは疎遠になりつつ恋人なのか元先輩後輩か分からなくなった時期。
 花宮は高校の先輩に告白された。一度断ったものの、諦め切れなかったのか何度も連絡がくるために一度くらいはと応じた。今吉との経験があることと、その今吉とはほとんど連絡を取っていない状況で躊躇うことは何もない。それよりも、と考えていたのは上級生の失脚。さっさと隠居してもらわなければ、自分たちが好きなように出来ない。一度の行為で多少荒れたとしても上級生を消せるなら問題ない。
 その先輩と寝た日の帰り道、そのネタをどう利用してやろうかと考えを巡らせていた花宮の前に今吉は現れた。
 おイタはあかんなぁ、なんて後で何度も聞くことになる言葉を告げて、困ったように笑う今吉に花宮は固まるしかない。久しぶりに現れた男は花宮を力強く花宮を抱きしめると、耳元で囁いたのだ。
『あいつはなんとかしといたし、安心しぃ』
 その言葉を聞いて以来、酷く付きまとう男と一度だけ身体を重ねるようになった。身体を重ねた男たちがどうなったかは知らない。調べるつもりもなかった。

「何、考えとん?」
 過去のことを思い出していれば今吉の顔面が目の前に来ていることに気づかなかった。
「アンタのことですよ」
 腕を伸ばして今吉の首に巻きつけば、唇へと噛み付くようにキスをする。吐く息をすべて吸い取るつもりで、舌を絡めて追い求める。時々ぶつかる眼鏡が邪魔で外したくなるが、眼鏡を含めて今吉なのだと思うとそれもできなかった。
 酸素を補給するために顔を離せば、ずる、と襟を引っ張られて鎖骨を露にされる。
「で、今回はなにされたん?」
 日に焼けることを知らない肌にはキスマークだけでなく、鞭でも使ったかのようなみみず腫れした線がくっきりと残っている。
「あいつ、もっとシメといたら良かったわ」
「いっ……!」
 赤い痕に音を立てて吸い付く今吉。花宮はこの時点できのうよりひどく弄られることを覚悟する。
 まだ明るい時間なのになた。
 カーテン越しにも分かる外の日差しを感じながら、花宮はこれからの行為に期待し、胸を高鳴らせた。