二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

氷花の指輪

INDEX|25ページ/44ページ|

次のページ前のページ
 

「気を失ってしまったか…。だが…。」

その瞬間。散りかけていた氷のつぼみが復活した。
誰をも惹きつけるのに、誰をも拒む鉄壁の防護陣。
あの一瞬で完全に復活させたか…やるじゃないか。
意外と反射神経、瞬発力、…戦闘のセンスはありそうだ。

先ほど逃げた牢番が恐る恐る近づいてくる。

「さ、参謀。…流石ですね…。
 こいつ、最近は何されても一切声を上げなかったのに…。
 さっきの声、顔、一緒に思い出すだけで興奮してくる…。」

「……邪魔だ。」

こんな下等な輩の頭の中に、彼女の記憶が残るのが許せない。

男の腕の一振りで、牢番は床に崩れ落ち、その霊魂は消滅した。
死霊術師として最高峰の実力を持つ男は、
いともたやすく、恐怖の大王を使役していた。

「バラクル。この場にいた、いやこの建物にいた全員を殺せ。消滅させろ。
 この娘を連れて帰るぞ。」

「……御意。」

「おや、バラクル。この娘とは初対面ではないんだったな?
 お前の霊魂がそんなに揺らぐなんてな。
 それが見れただけでもコレは、いい拾いものだ!」

「……。」

なんだ?
大切に隠しておいた宝物を暴かれた子供みたいじゃないか。
これが二つ目のピースとなるか。

「ふふ。長老に研究費の増額を要求しよう。
 面白くなってきた。
 大公どもも本当に馬鹿だ。本当に価値があるのは娘のほうじゃないか。」

娘の鎖を解いてやり、その小さな身体を抱きかかえる。
この特殊霊魂が私以外に扱えるわけがない。

「ふん…。名前は、アリ…ス?違う気もするが…まあどうでもいい。
 さあ、行こうか、アリス!
 約束通り、君に死霊術を教えてあげよう。
 そして君は、彼の霊魂と一緒に旅をして、一緒に笑い合って、愛し合うがいい!
 だが、それも含めてすべて、すべて私のものだ!」

「……。」


彼は気づいていなかった。
彼もまたサイレントセイレーンに、惑わされた一人となったことに。

---

「目覚めたかね。アリス。」

「……!?」

明るい陽光の差し込む部屋、柔らかいベッド、
手かせも足かせもなく、いい匂いのする風。

「はっ、あ……。」

うまく声が出ない。
目の前で椅子に座っているのは、最後に牢で会った男だ。
たしかさんぼうとか呼ばれていた。
ベッドの上に座り、きょろきょろと部屋を見渡す。

「ここは私の家だ。君を牢から連れ出しここに連れてきた。
 体を洗い、衣服を替えたが、いまさら恥ずかしがることもないんだろう?」

質素な白いシャツに
ウェストの部分が編み上げになっている膝丈のスカート。
本当に久しぶりに、ちゃんとした洋服を着た気がする。
さらさらの肌触りがくすぐったい。

「取引の内容は覚えているか?
 私は、君に死霊術を教える。
 君は、それを死ぬ気で習得する。
 その後、君は君の王子様と好きにしていい。
 ただし、その君の望みが叶えられたら、君の霊魂は私がもらう。OK?」

ニコラスを召喚できるようになって一緒に雪を見に行けるなら
こんなにいい条件はない。
その後、私はどうなっても構わない。
私は、必死で首肯した。

「最初に付け足しておくが、
 私の訓練は厳しい。というか別の仕事もあってあまり時間が取れないので
 一気に詰め込むことになるだろうから覚悟しろ。
 それと、この家にいる間、私の命令は絶対だ。
 もちろん勝手にこの家から出ることは許さない。」

続けて首肯する。問題ない。
早く、早くニコラスに会いたい。

男が座っていた椅子から立ち上がり、
悪魔のような笑みを浮かべてベッドの上の私を見下ろす。

「言っておくが、本当のところ私は早く君を殺して、
 その身体から霊魂を抜きたい。
 だけど、君の霊魂がもっともっと美しく磨かれて
 最高の状態になったところで手に入れるほうが面白そうだと思っている。

 今の君のは、ニコラス王子の霊魂を守るためか、
 彼の霊魂とくっついてしまっているし、凍てついていて、とても荒んでいる。
 本来は、もっととろけるような艶とプラチナのような輝き、
 溶岩のような底冷えする熱を持っていたはずだ。」

男が私の首をつかむ。首が締まる。
 
「私の見込み違いと判ったら、取引を中止にするかもしれないから
 せいぜい私を失望させないことだ。」

(……わ、かりま…した……。)

声にならない声。
首から手を離されて、酸素を求めてあえぐ。
私は、ニコラスとの約束を守るための一歩をくれた
その男に、お礼を言った。

「あ……ありがとう…ございます。さんぼうさん……?」

男が複雑そうな顔をした。

「うーん…。君に参謀と呼ばれるのは変だ。
 ……そうだな、先生と呼びたまえ。」

「はい……。先生。」

男は満足そうな笑みを浮かべて
私をベッドに押しつけ、右の耳に囁いた。

「早速授業を始めよう。
 君がどこまで耐えられるかも見ものだ。
 ……せいぜい苦しんで、その霊魂を歪めるがいい。
 楽しませてくれよ。」

そういって、私のみぞおちのあたりに手を当て
強い力で、何かを押し込んだ、ように感じた。
誰かの他の人の霊魂が、私の中に入ってきたんだ。

「――――――――――――!!」

最初の悲鳴は声にならなかった。
声を我慢していたんじゃない。
他人の記憶が入り込む嫌悪感はもちろんあったが、
首が…、息が……。

「記念すべき最初の死霊は、
 最近絞首刑にされた男のものだ。
 初めての君のために、特別なものを用意したんだ。感謝しろ。」

首が締まる。
手で首をかきむしりたいのに、
先生が、私の両腕をきつく拘束している。

「実際には首は締まっていないんだ。
 でも、早くしないと、本当に死ぬぞ。
 その男の苦痛と恨みのエネルギーを霊力に変換するんだ。早くやれ。
 ニコラス王子のと同じようにすればいいんだ、分かるだろう?」

――― そんなこと、分からない!どうやったらいい……の。


初日、私はそこで気を失った。いや死んだのだ。
死霊術師は、霊魂を取り入れその恨みのエネルギーを力に変える。
何百、何千、何万もの死霊を取り込み、同じ数の死を体験する。

ニコラスのために、私は死霊術師になると誓った。
でも、私には死霊術師になる覚悟が全く足りなかった。

この日から始まった先生の授業は、
牢での毎日の方が楽だったと思わせるような、凄絶なものだった。
それでも、一歩ずつでもニコラスに再会できる日に近づいていると思えば
どんなことでも耐えられた。


そして、3年後、私は死霊術師として認められることになる。
ニコラスを召喚し、彼との約束を果たすために、
その後、またこの地獄へ戻ってくるために。

作品名:氷花の指輪 作家名:sarasa