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氷花の指輪

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食事は、このあたりの獣の肉と野菜などを煮込んだ料理とパン。
セリアの料理はとても美味しいが、
マスターのいない食卓はとても味気ないものだった。

「アリスさんがいないと、ニコラスさんまで元気ないですね。」

「あ、ああ。すみません。食事の雰囲気を悪くしてしまいましたね。」

「いいえ。それは構いませんが、
 何か悩み事があるようでしたら、相談に乗りますよ。」

「……ちょっと子供っぽいかもしれませんが、
 マスターとバラクル王が
 私に何か重要なことを隠しているような気がして、落ち着かないのです。
 マスターは、出会った時から、ご自分のことをあまり話さない方でしたが、
 どうして、話してくれないのかってずっと思っていて…。
 私を愛してくださっているのに、私に言えないことがあるのか、とか
 結局、私が死霊だから、何のお役にも立てないってことなのでしょうけど……。
 それならバラクル王だって同じで…。」

セリアの温かい雰囲気に、何故か素直に自分の気持ちを話してしまった。

「あっ。すみません。最後の方は聞かなかったことにしてください。
 ただの愚痴ですね、これじゃあ。」

流石に呆れられてしまったかと思ったが、
セリアがまっすぐ真剣な瞳のまま問うた。

「ニコラスさん。あなたの方はどうなんですか?
 その重要な隠し事を知るための心の準備が出来ていますか?」

「知るための心の準備…。」

「女が隠し事をするのは、
 誰かを失いたくないときか、誰かとの愛を失いたくないときか、だと思います。
 今、隠されていること、話されていないことがあるとしたら、
 それを話すことで、そのどちらかが起こると、
 アリスさんが思っているんじゃないでしょうか。
 そんな話を聞く覚悟が、あなたにできていますか?」

誰かを失いたくない、誰かとの愛を失いたくない……。

「もっと簡単に言いますと、
 アリスさんは、ニコラスさんに怒られて嫌われてお別れするのが嫌なので
 隠し事をしているんじゃないでしょうか?
 それを聞いてあげるには、ニコラスさんが、
 怒らないよー。嫌いにならないよー。別れたりなんてしないよー。
 だから話してほしいんだ。という
 そういう姿勢にならなければならないと思いますよ。」

「私が、マスターを怒ったり嫌ったりですか?
 そんなこと、あり得ないのに…。
 ずっと一緒にいたいという思いも伝えているのに、
 そんなことを心配して……。」

そんなことあり得ないと言える。
言えるはずなのに、改めて問われると不安がよぎってしまう。
本当にどんなことでも、私はちゃんと聞いてあげられるのだろうか。

「アリスさんにとってはそんなことじゃないんですよ。
 人の気持ちは、言葉ひとつで変わります。
 大好きな人に怒られるかも、嫌われるかもっていう、
 不安な気持ちは一大事です。
 それだけあなたが愛されているということですよ。」

「……。」

「あなたは太陽のような方です。
 そして、アリスさんは氷のような人です。
 あなたの優しい熱があれば、
 いつかきっとアリスさんの凍てついた心も解けるでしょう。
 ……最後に、もうひとつ。
 真実は、隠し事のさらに奥に隠されていることも、お忘れなく。」

セリアの謎めいた言葉をなんとか理解しようとしていたその時、
二階から、大きな物音がした。

「マスター!?」

私は、すぐにマスターの部屋へと向かった。

すごく嫌な予感がした。
取り返しのつかない何かが始まってしまったような。
……いや、とっくに終わっていたのかもしれない。
私が今まで知ろうとしなかった、何かは……。

---

重い瞼を開けて、宿の天上を見る。
全身の痛みが少し引いたようだ。
よかった。身体の痛みは、まだ生きている証だ。

(目が覚めたか?意識を失っていたのは1時間弱ってところだ。)

バラクルの霊魂が、不安そうに漂っていた。

「あれ?ベッド……?」

(ニコラスに運ばせた。後で礼を言っておけよ。)

「うん……。」

ニコラスに何か勘付かれただろうか…。
ゆっくり体を起こす。
うん。動ける。もう少し霊力を確保しておいたほうがいいか。

(お前に、渡すものがある。
 ずっと渡すべきか否か悩んでいたのだが、
 ……使うか使わないかは、お前が決めればいい。)

突然バラクルがそう切り出した。

「?」

(……すごく嫌がると思うが、薬だ……。
 その身体を少しでももたせるために…と思って、アイツからもらってきた。)

「な……まさか、それって……。」

膝の上に、リボンで飾られた小さな箱が現れる。
質素な箱を銀のリボンで可愛らしく飾っている。
恐る恐る手を伸ばす。
箱の上にリボンで挟まれていたのは、メッセージカード。

――― My dear A.

A.はアリスの頭文字…『私の愛するアリスへ』
たったそれだけのメッセージに背筋が凍る。そして、胸が高鳴る。

震える手でリボンを解く、
箱の中に入っていたのは、小さな瓶だった。
無色透明の液体が入っている。
瓶のラベルには、

――― Dead or Alive.

『生死を問わず』

生きてても死んでてもいいから、生身でも霊魂でもいいから、
早く自分の元へ戻って来いという先生からのメッセージ。
その短い文章に、激しい狂気と私の心を折るための優しい凶器を仕込んで。
これは、薬なんかじゃない、毒だ!
本当に身体の症状が良くなるものだったとしても、私の心にとっては毒だ!

「バラクル!余計な…余計なことを!」

猛烈な怒りに、身体の痛みも忘れ、
そばに置かれた、ワンドをつかみベッドから飛び降りる。

「バラクル!降霊召喚!」

降霊憑依しかしたことがないその霊魂にありったけの霊力を乗せ、実体化する。
実体化したバラクルからあふれる闇の気が部屋を揺らす。

「お、おい!そんな霊力使うな!」

「うるさいっ!戦えバラクル!
 こんな毒を使うくらいなら
 今すぐにでも、お前の剣の錆になった方がましだ!」

一瞬でも、それにすがろうとした自分が許せなかった。
身体の痛みなんて、ずっとずっと耐えてきたのに。
死と別れを目前にこんなに弱くなっている自分に腹が立った。

バラクルの降霊召喚は思っていた以上の霊力を使う。
このエリアは霊魂の補給は易しいが、
霊力に変える回路が追いつかない。胸が苦しい。
……これが、私と先生の力の差だ。
自分のみじめさに、胸が苦しい。

「お前はアイツを信じられないかもしれないが、
 それでも、アイツもお前の身体を心配しているんだ!」

「だまれ!たとえそうだとしても、
 先生に助けられるのはもう嫌だ!
 嫌なのに、こんなもの!こんなものがあると
 すがりたくなるじゃないか!くそっ!はぁ…はぁ……。」

苦しい。霊力が足りない。
身体の中を荒れ狂う霊魂に、精神が乗っ取られそうになる。
あぁ……。霊力が近づいてくる。私の…太陽……だ。

作品名:氷花の指輪 作家名:sarasa