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氷花の指輪

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いつもの凛々しい姿とは違い、
とてもかわいらしいマスターのパジャマ姿に見とれて
今おかれている現実から目を逸らしそうになった。

マスターにちゃんと話を聞かないといけないのに、
怖がって口に出せず、マスターにもはぐらかされる始末。
バラクルの口調からして、そんなに時間的な猶予はないはずなのに。

私は知らないといけない。どんな真実でも。
そして、彼女を許し、彼女が後悔しない残りの日々を……。

「ニコラス。こんなところにいたのね。」

マスターの声がして、振り向く。
あれ?マスターが近づいて来れば気配ですぐにわかるのに、
今は全然気が付かなかった。

「マスター!?そのお姿は……。」

先ほど折角可愛らしいパジャマを着たのに、また黒い軍服になっている。
驚いたのは、彼女の髪と肌の色……。
初めて会った時の、真っ白い髪と黒い肌。

「ニコラスは、こっち方が好きかなって思って♪」

そういって私に抱きついてくる。
ふんわりと弾む綿菓子のような髪。
するすると絹のようなすべらかな肌。

「はい。……とても懐かしく思います。」

何かがこみ上げてきた。
全ての始まりのあの日のことが、
マスターとなったあの少女のことが、鮮明に思い出される。
だから……その首筋に長くとがらせた爪をあてがう。

「あなたは、マスターではありませんね?」

「……ふふふ。」

マスターの姿をした何者かは、一瞬、床に沈み、
そのまま体当たりをするように、私を壁に打ち付けた。
強い痛みに喘ぎながら、ずるずると床にうずくまる私に馬乗りになると、
その美しい、マスターと同じ顔で私を見降ろして言った。

「こんなに早くバレるとはな!
 霊魂はきれいにオーバーラップしてあったはずだし。
 どこで気付いた?」

「……マスターは、あんなふうに私に抱きつきません……。」

「あははは!冗談だろう?
 愛する者同士のスキンシップくらいしたまえよ。
 そんなんだから『お父さん』も、やきもきして、ずるしちゃうんだよ。」

「だれですか、あなたは……。
 バラクル王のことを言っているんですか?」

この者は危険だ。
我々の事情をかなり深く知っている人物だ。

「おっと、この身体は傷つけない方がいい。
 いつか彼女自身になるのだから。」

目の前の身体を薙ぎ払おうと、霊力を集中していた手が
マスターと同じ華奢な両手で封じられる。
だが何て力だ!全く動かせない!

「……私に何かご用ですか?」

焦りを見せないよう、いたって冷静に尋ねる。
ふんわりとした白い髪が、私をくすぐる。

「挨拶しにきたんだ。
 お前の霊魂を見るのは初めてではないけど、
 こうして実体化して動いているのは初めて見るからね。
 初めましてニコラス王子。私のアリスがいつもお世話になっているね。」

――― 私の、アリス?

マスターの知り合いだろうか。
声がマスターと同じなので、女性かと思ったが、口調から男性のようだ。

「私の考えた実体化術式、うまくできているじゃないか。
 アリスがお前をいつでもどこでも実体化させてるってきいてね。
 ずっと見てみたいと思っていたんだ。
 恋人ごっこのつもりだとしたら、とんだ変態女だな。」

「なんなんですかあなたは!マスターを侮辱しないでください!」

「ふーん。ずっとマスターって呼んでるんだ?
 名前で呼んであげないのか?恋人ごっこなのに?」

そういって、頬を摺り寄せてくる。
耳を甘噛みしてくる。
マスターではないことは分かっているのに、切ない……。

「くっ……。マスターと私は恋人などでは……。」

「ふふふ。いい反応だ。予想通りで嬉しいよ、ニコラス。
 その通りだ。アリスとお前は恋人などではない。
 お前は、呪いでアリスを愛さなければならないと命じられているだけだからね。
 その左手の指輪だ。自分で外せない指輪はさぞ重いだろう?
 お前は、アリスの契約召喚霊でもないのに、彼女の死霊のように使役され
 なおかつ、期限付きで、愛することまで強要されて。
 かわいそうに……。」

「!?何を言っているんですか?」

「本当に知らなかったんだな。
 お前はアリスと初めて出会ったとき、その指輪を媒介に呪いをかけられたんだよ。
 彼女の得意技なんだ。誰かを呪うのは。
 お前が彼女に注いでいる愛情は偽りだよ。彼女もそれを分かっている。
 だから変態の恋人ごっこって言ったんだ。」

「そんな、そんなはずありません!
 私は確かに彼女の召喚霊ですし、彼女のことを愛しています!」

「哀れだな。いや、それだけアリスの呪いの強さがわかるってものだ。
 今まで、一度も違和感を感じなかったとは言わせないよ。
 本当にお前は召喚霊だったか?
 本当にお前は愛し、愛されていたか?」

「……。」

「混乱しているだろうが、落ち着きたまえ。
 期限付きって言っただろう?
 お前が呪いに縛られているのも、あと数日だろう。
 雪が降るか、アリスが死ねば、呪いは解け、お前は自由になれる。
 ……そして、アリスは私のものになる。」

「!?」

これは、バラクルが言っていたことだ。
私がマスターから聞かなければならなかった真実だ。
『指輪の呪い』と『約束が果たされた後』のこと……。

真実……なのか?

優しい笑顔で見下ろす、白い髪の彼女の顔に
いつもどこか寂しそうな笑顔の、金色の髪の彼女の顔が重なる。
彼女の顔を見つめながら、自分自身の心に問う。

――― マスターへの思慕も、
     ずっとそばにいたいと思った熱情も
     その涙を拭いたいと思った切なさも、
     呪いが生んだ偽りの感情?

     マスターからの愛情も
     一緒に生きたいと思ってくれていたことも
     あの触れ合った唇の温かさも
     期限付きの恋人ごっこ?

私は、私の気持ちは……。

「ニコラス。泣いているのか?
 キスをしてあげようか。この顔の女としたかったんだろう?
 したいと思わされていたんだろう?」

美しい彼女の顔が近づく。
確かに私は、この唇を……あの温かさを……切望して……。

作品名:氷花の指輪 作家名:sarasa