氷花の指輪
「ニコラス!」
今度こそ間違いない。私のマスターの声がする。
霊魂と霊魂が結ばれた、私の本当のマスターだ。
そう思っていた女性だ……。
息を切らして、ボタンのとれたパジャマの前を左手でぎゅっと押さえ、
右手に青い短剣。
一緒に選んだ、私からの初めてのプレゼント……『氷棘』。
「バッドタイミングだね、アリス。彼の唇を奪い損ねた。」
「……人形がもう一体?ニコラスから離れてください!
ニコラスに何をしたんですか?」
「まだ何も。
ちょっと壁にぶつけて押し倒していただけだよ。
ああ、でも、バラクルの伝言?
彼が知りたがっていたことは、私からざっくり教えてあげたよ。
君の絶望も足りないようだったから、刺激を与えようと思ってね。
君は諦めて戻ってくるんじゃない、絶望して戻ってくるべきなんだよ。
自分のタイムリミットくらい自覚しておきたまえ。」
「!」
戒めがとかれ、私は体を起こす。
二人が何を話しているのか、よくわからない……。
頭がクラクラする……。
「ふふふ。ほら、ニコラス。
アレに言うことあるんじゃないの?
今まで散々、お前の霊魂はアレにもてあそばれてきたんだよ。」
白い髪の彼女に後ろから抱きしめられ、促され、金の髪の彼女を見る。
アレ…。ああ、そうだ、目の前の女性は……。
「マスター……。」
金色の彼女は、苦しそうな顔で後ずさりした。
どうしてだろう。
どうして涙がでるんだろう。
私の気持ちは……。
「マスター。私は、あなたを……愛しています。」
金色の彼女は、呼吸を止め、目を見開き、
そして、ゆっくり泣き出しそうな顔になり、頭を横に強く振った。
そしてそのまま、後ろの扉から宿の外へ駆け出して行った。
「あはははは!今ここでそのセリフとは!
……ニコラス。お前最高だね……。
お前の霊魂もほしくなってきたよ。」
白い彼女は大声で笑った。
金色の彼女はこんな風に笑わない……。
「ああ、そろそろ時間切れだ。
人形の有効時間を延ばす改良をしないといけないな。
次はお前たちの絆が切れたころに会いに来るよ。」
そういって、私の愛する人の姿をした人形は消えた。
もうすぐ夜になる。
ぼろぼろのパジャマに素足では、凍えてしまう。
ソファーにかかっていたブランケットを手に、私は金色の彼女を追った。
私の愛するマスターを追った。