機動戦士ガンダムSEED⇔ 第一話 「ヘリオポリスのアスラン
アレックスがアスラン・ザラを名乗ったのは、プラントを出たときが初めてではない。
最初に名乗ったは、7歳のときだ。
その頃から既に、プラント、地球圏で命を狙われる身になっていたパトリックは、家族の身を守る為に、
アレックスに「アスラン」という偽名を名乗らせ、母親と共に月に住まわせた。
その頃から彼には、親友が居た。
『ここ最近、プラントに居たころの友達を思い出す。キラ・ヤマトだ。アイツはオレが、戦争を嫌って国を出ただけと信じている。
アイツにとってオレはアスランでしかない。キラ・ヤマト――今もプラントにいるのだろうか』
キラ・ヤマトは月の幼年学校で同じクラスになった少年だった。
幼児の頃から、機械いじりが趣味であるアスランと、ヒマがあればコンピュータをいじっているキラは、似たような趣味を持った良いコンビといえた。
戦争が始まり、Nジャマーによる通信の妨害が入るようになって、いつからかキラとの連絡もつかなくなった。
自分が本当はアスラン・ザラではなく、アレックス・ディノという名前であることも知らないのだ。
父親に軍隊への参加を強いられたために、プラントを離れる事になったことも知らない。
そう考えると、キラと合ったのはもう随分昔のことであるような気がしてきた。
アスランはキーを打つ手を止め、タブレットの電源をスリープ状態にすると、そのままベンチに寝そべった。
人工の空を仰ぐと、あの日の事に思いを馳せた。
「行くんだね……アスラン。 いつか、戦争の心配がなくなったら、また会おう」
友との別れの日、アスランはキラにプレゼントをした。
何時か地球に行って野生の生き物を見たいと言っていた彼の為に、ロボット鳥を作ったのだった。
「プラントに居たら、いつか戦争に巻き込まれるかもしれない。キラも家族と一緒に、此処を離れることを考えたほうがいい」
そこには、此処ではない何処かで、また友として再会したいという思いが込められていた。
できれば地球のような土地で、本物の鳥でも眺めながら……。
ロボット鳥を受け取ったキラは、ありがとう、と礼を言うと共に、
「プラントと地球でほんとに戦争になるなんてことはないよ……僕の両親だって、ナチュラルだけどプラントに受け入れられているんだから」
そう言ってキラはアスランに握手を求めてきた。
つながれた手と手に、ロボット鳥が乗った。
二人は、その様を見て、笑いあった。
――しかし、皮肉にも、その後地球圏の状況は混迷の一途を辿っていった。
地球連合がプラントに宣戦布告する原因となった爆破テロ、「コペニルクスの悲劇」が起き、さらには人類が今まで体験し得なかったあの未曾有の悲劇、『血のバレンタイン』が起こってしまう。
それでもアスランはうっすらとした期待を捨てずに居た。
『いつか、平和になったら、キラともまた会える。 父とも…ひょっとすれば……』
それは期待や願いや信条というよりは、祈りに似ていたのかもしれない。
作品名:機動戦士ガンダムSEED⇔ 第一話 「ヘリオポリスのアスラン 作家名:内山ワークス