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いつき りゅう
いつき りゅう
novelistID. 4366
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悪魔の国のアリスティル

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「あ〜んな目で視姦されちゃねぇ…そりゃ逃げるよねぇ。身の危険感じて」

「ごっ!誤解だっ!俺はそんな目で見てなんかっ」

「だったらとっとと追いかけて、誤解を解いてきなよ。」

笑顔に嘲笑いの色を含ませて二世の背中を押す悪魔くんの言葉に、慌てて飛び出し埋れ木の名を呼びながら後を追いかける二世。

「…頑張ってねぇー」

どちらへともなく励ましの言葉を投げ掛ける悪魔くん。明らかに楽しげに。
これだけで、首謀者が誰なのか察してしまえる自分に溜め息が漏れた。

「…謀ったな…」

「さぁ〜ねぇー?」

そら惚ける悪魔くんは、さっき二世に向けたのとは全く違う目を彼らが飛び出していった方へと向けた。
微笑ましいと笑いながらも、どこか一波乱望むような無責任極まりない傍観者の目。

「上手くフォロー出来るといいよねー。真吾君ってばはにかみ屋さんだものねぇ」

自分でお互いに意識する様に仕向けておいて、その台詞か。

「なに?何か言いたい事でもあるの、ダニエル」

振り向く笑顔も艶やかに。
卑屈なところなんて欠片も向けられないその笑顔。

「…埋れ木がああだというのに…」

女装なんてさせられて顔も上げれない程恥ずかしがっていたのに。
羞恥に耐え兼ね、後先考えずに逃げ出した程に恥ずかしいと感じたというのに。

「どうして君はそんなに堂々としてるんだっ!?」

埋れ木とは比にならない程の露出度の服で恥どころか、さも当然のように泰然としているのはどういう事だっ!?

「君にはメシアとしての自覚は無いのかっ!!」

人々を導く使命を持つ君がそんな格好で!
良識は!?恥はどうした!?見ているこっちが恥ずかしくなる!!
ついつい荒げた声で感情をぶつけている自分を落ち着かせようと、一度言葉を切て大きく息を吐く。

まあ、僕がどれだけ言ったところで、彼が自分が決めたことならば僕の言う事なんか聞くはずもないって分ってる。
似合うか似合わないかと言われれば間違いなく似合っているし、自分の容姿に自信を持ってる彼が似合うと思うのなら、女装如きで居たたまれない気持ちなど抱くはずもない。
そんな彼の事だから当然反論が来ると思ったのに、このタイミングでも何も返されないことに僕は疑問を覚えた。
二度三度と深呼吸しても何も言ってこない。
ふと、彼を見れば、無言で顔を俯かせて僕から視線をずらしている。
彼の表情を窺うことも出来ない僕はそれだけで無性に不安になった。

「…おかしい…?」

ぼそりと、漏らした呟きも、ともすれば聞き逃してしまいそうな程微かで。
いつに無いその弱々しさに、感情に任せて言い過ぎたのやもと、胸に罪悪感が沸き起こる。

「こんな格好、おかしいって思う?…気持ち悪い?似合わない?」

いや、似合っているからマズいんだ。
気持ち悪いだなんて言ってないだろう!?
間髪いれずに反論している心の中とはうらはらに、明らかに気落ちしていると思しき彼の滅多に無い様子に狼狽している僕には、即座に上手く口に出して説明出来なくて。

「君に、見てもらいたかったんだけど…ダメだった…かな…?」

一向に顔を上げようとしない彼の声は、どんどん小さくか細くなっていく。
まるで泣き出す前兆のようなその弱々しさに胸の奥が締め付けられる。
どう言えばいつもの彼に戻ってくれるのか、取り乱して冷静な判断の出来ない僕には分からなくて、思わず思考の片隅に引っ掛かって耳に残った彼の言葉を繰り返し呟いていた。

「見てもらいたかったって…僕に…?」

何故?と疑問をそのまま口に出せなかったのは、目の前の彼が少しだけ目線を上げたから。
伏せていた顔はそのままに、ちらりと僕を見上げたその瞳は不安げな光に揺れていた。
僕よりも小柄な華奢な身体を小さくちぢこませて。
拗ねた様に少し尖らせた口元の艶やかな唇に、目を奪われた。

「可愛いって…言ってもらいたかったんだけど……」

そう、悪魔くんは呟いてそのまま口を噤んでしまった。

どうして?とか、何故?とか、僕から背けた彼の横顔はそんな追及を拒絶する雰囲気を醸し出していた。

聞きたい、けど、聞けない。
今更言っていい事なのかも分からなくなるほど動揺している僕。
傍から見れば、さぞ滑稽だろう。
僕だって他の奴等にだったら簡単に上手い事言い含めれるさ。
それが出来ないのは今僕の前にいる相手、彼が僕の悪魔くんだからだ。
僕が敗北を認めた唯一人の人間。
僕とすら対等に渡り合える頭脳を持った僕の半身。
誤魔化しの言葉なんか彼はすぐに看破してしまうだろう。
それじゃ駄目なんだ。

幾ら考えた所で、その場凌ぎの取り繕いの言葉なんかじゃどうにも出来ないんだから。
僕は着ていた燕尾服の袖を抜いて、脱いだ上着を静かに悪魔くんの肩に掛け、外気に晒されていた背中を覆い隠した。

その僕の行動に、今までそっぽを向いていたはずの悪魔くんが、戸惑う様な視線を投げ掛けてくる。

「…いつまでもそんな格好、さらけ出したままでいないでくれ」

取り繕いの言葉よりも、僕の素直な言葉でないときっと彼は納得しないから。
僕は必死で言葉を探す。今の気持ちをちゃんと説明できて、彼に判ってもらえる率直な言葉を。

「見てもらいたかったっていうんなら…僕にだけ見せればいいんだよ」

こんな所で他の奴等にも見せるんじゃなくて。

「言うに言えないじゃないか…他の奴がいる前でそんな、『可愛い』なんて…」

ああ、ダメだ。
その一言を言うだけなのに、頭に血が昇る。顔が熱い。
自分が今、どれだけ赤い顔をしているのか鏡を見なくたって分かるから、今度は僕が彼から顔を背けてしまう。
照れる僕を見上げる悪魔くんの視線にいたたまれなくて、つい口元を覆い隠した手の平にまで熱が伝わって来る。

「ホントに…?」

おずおずと問う声に反して、その向ける視線は熱い。

「…ホントだよ…だから、あまり…僕以外の奴にまでそんな姿見せないでくれよ、頼むから」

恥ずかしさで思わず語尾が小さくなっていく僕の言葉に満足したのか、肩に掛けられた上着の合わせを胸元で抑える彼の顔からは不安の陰は払拭されていた。

「うんっ!いいよ」

そう言って、嬉しそうにはにかむ笑顔をちょっとだけ上着に埋めた彼。

「…あったかいな、これ」

「そんな寒そうな格好してるからだろ」

室温は最適。実際、上着を貸してシャツ一枚の僕だってそんな寒いわけじゃない。

「えへ、…ダニエルの匂いがする…」

「いっ!嫌なら突き返せよ!」

さっき袖を通したばかりの服なのだから、そんなはずないと思ってもそんな風に言われては気恥ずかしくなってくる。

「や・だ・よ。…有難うね、ダニエル」

微かに頬染めてお礼を述べる彼の笑顔。
無理にそんな格好なんかしなくたって、そんな表情だけで充分可愛いのに…。
だってさ、言えるわけないじゃないか。僕がどれだけ君に夢中になってるか示すような事を、この僕が人前で気軽になんて。
例えば、不意打ちで偶に目が合った僕に、そっとはにかんだ笑顔を返す君の可愛さなんて誰にも教えたくない。