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雲のように風のように

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 にこりと笑う顔は柔和だが、その大きな目はかけらも笑っていなかった。ロイは眉を顰めたい気分で言葉をしまいこむ。
 やはり似ている、と思った。
 そもそもからして、気配自体がエドと似ているのだ、目の前の人物は。
「そして、さよならです」
「……?」
 突然剣を投げた青年に、ロイは今度こそはっきりと眉を顰めた。何をしようというのだろうか。と…、
「…な!」

 ――パン!

 高らかに打ち鳴らされた両の手と、そこから発した光にロイは目を大きく見開いた。これではまるでエドと同じだ。
 だが、相手はロイの驚きを、それが初めて見るがゆえの態度だと思ったらしい。無理もないことだが。
「驚きましたか? ――本当ならこれと同じことが出来る宮女がひとりおそばに上がったはずだったんですけどね!」
 何かを仕込んででもいたのか、光が消えた先、青年の手には見たこともない刃が握られてきた。そしてそのまま、呆気にとられていたロイに肉薄してくる。慌てて避け、ロイは声を張り上げた。
「どういうことだ!」
 剣を構えなおし、避けてもなお距離をつめてきた青年と切り結びながらロイは続ける。ここで間違ってはいけないという危機感のようなものがあった。
「エドの身内なのか?!」
「…っ、なれなれしくその名前を…!」
 青年の目に怒りに似た炎がゆれて、それでロイは確信した。この相手がエドの身内であること、どうしたわけか、自分を憎んでいるらしいことを。
 これは、このまま切り伏せるわけにも行かなくなった。もしも万が一エドの身内だったりしたら、…いかに乱戦下とはいえあの子を泣かせることにもなるだろう。それはできない話だった。まして今、この場には青年と自分しかいないのだ。
 だが突き放して説得するには相手は腕が立ちすぎた。全うに切り結ぶしか出来ぬまま、しばし時が過ぎる。
 とうとう舌打ちすると、ロイは、片手を開けて指をはじいた。不意に隙を作ったロイに青年が踏み込んでくるのが見えたが、…練成の方が早い。十分に加減したのだが、至近距離で爆発を受け、青年は壁に吹っ飛ぶ。
「その練成、その髪と目……もしかして、おまえ…『アル』か…?」
「………な…?」
 ロイは刺される危険も顧みず、青年に一歩迫った。青年――アルフォンスもまた、この皇帝の意外な発言に動けないでいる。
「…よかった。そうなんだな?」
「……なんで、そんなこと…」
 ロイはばつがわるい顔で目をそらした。
「…私の皇后に聞いたんだ。それだけだ」
「…………は?」
 絶句するのはアルフォンスの番だった。
「ちょ…っ、それはどういう…」
「だから。…君の兄さんは、私の皇后だと」
 ロイとしても、口にすると馬鹿馬鹿しいというかなんと言うかで、…言ってみて何となくリザの気持ちがわかる気がした。
「…変態…?」
 青年の目が胡乱なものになるのに、ロイはため息をついた。
「とにかく。…どういう理由で私を憎んでいたのか知らないが…」
 そこまで言いかけて、ロイは構えを取った。だが矢が空を裂く方が速かった。
「…っ」
 誰もいないと思って油断していたが、アルフォンスは反乱軍の参謀だ。その参謀が単独行動をとるのをコーネロなり誰かなりは見逃さなかったということだろうか。とにかく、兵士がそばに迫ってきていた。矢はロイの腕をわずかにかすめたが、致命傷には到底至らない。だが狭い場所で囲まれたら厄介だった。
 矢に続いて勢いよくなだれ込んできた兵士は八名。弾き飛ばしてやりたいところだが、建物の中であり、下手をすると自分まで生き埋めになる。ロイはとりあえず切りかかってきた兵士を右に左に切り避けながらタイミングを計っていた。
 が…。
「…くぉらぁっ!!」
 威勢の良い高い声がしたが早いか、大きな揺れと共に石の拳がだんっ、と床をついた。あまりの事態に、兵士も、勿論ロイも唖然として言葉を失っている。
 だが…。
「……にいさん…?」
 え、とロイは青年を振り向いた。
 だがそれを確かめるより先に、声の主が飛び込んできた。勇ましくも剣を構えた姿は、戯曲や小説の「女」主人公のように凛々しく華やかだ。
 唖然としている兵士達を、石の拳がぎゅっと拘束した。
「…ふんっ。人の旦那に何してんだって…」
 一仕事終えた勢いで言ってのけたエドの視線が、壁に吹っ飛ばされたままだったアルフォンスで止まる。
「…………え?」
 エドの目と口が大きく見開かれてとまった。
「……やあ…」
 アルフォンスが力なく片手を挙げる。
 ――こと、ここにいたって、彼にも自分の壮絶な勘違いがわかったのである。頭痛さえ伴って。
 かなり遅い発見と理解だったといえる。


 合流したとき一人増えていたことに、マリアは軽く目を瞠ったが、大した問題ではない、と結論付けた。今はそれより大事なことがあったからだ。
「揃ったところで、逃げるわよ」
 軍師は簡潔に言った。
「…あ、じゃあ、皆さんは先に」
 そこで、一人増えていた人間がそう声を発した。マリアは再び目を瞠ったが、今度は別の人物が声を発した。
「アル?」
 良くはわからないが偶然に行き会えた実の弟が離れようとするので、エドは不審げに眉を寄せた。戦闘の邪魔にならぬようにとはいえ、当初綺麗に結い上げられていたはずの金髪も、今はさすがに乱れて煤けている。無論その目は輝きを失ってはいなかったが。
「陛下方、御髪を頂けませんか?」
「……なるほど」
 ロイだけが心得た様子で頷き、誰かが何かを問うより早く、自分の髪を一房切った。そうしてから、ぽかんとしているエドの金糸を手に取り、惜しむように目を細めた後同じように一房切り取る。
「これで足りるか」
 差し出された髪の束を恭しく受け取ると、アルフォンスは十分ですと笑った。
「――ボクは随分勘違いしてかき回してしまったようなので…」
 苦笑して言う弟に、エドは首を傾げるばかりである。何となく察し始めていたロイは、「妻」の弟同様苦笑しただけだった。
「とりあえず、皆さんが逃げる間くらいは稼ぎましょう」
「え…?」
「エド」
 首を傾げるエドの腕を、ロイが引いた。
「ちょ、…待って、アルは…」
「後から行くよ。ちゃんと…探すから、今度は」
 そこで彼は複雑な顔をして最後の皇帝を見上げた。
「――頼みましたよ。…義兄さん」




 射出器から出たのかもしれないが、いつの間にか後宮の一角が火の手に包まれていた。一行、つまり、皇帝、皇后、側近の最後の一団は、その混乱に乗じてまんまと後宮を脱出した。
 その脱出を見送った反乱軍の参謀たる青年は、不意に厳かな表情を浮かべると、金と黒の髪の束を胸に、コーネロを探した。

























 皇帝夫妻の亡骸は灰になったと伝えられ、その遺髪をして、王朝の終わりが定まった。コーネロは新たに王朝の樹立を宣言するが、寄せ集めの俄か集団としては当然の帰結か、新王朝は樹立後わずか三年で瓦解した。直接の原因は西方からの異民族の侵攻であるが、内部が既に崩壊していたことはいうまでもない。
作品名:雲のように風のように 作家名:スサ