二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

Last/prologue

INDEX|15ページ/23ページ|

次のページ前のページ
 




「不破?」

「そう、理工学部にいるらしいんだが、知ってるか?」

サンドイッチとコーヒーを頼んで席に戻る。
その頃には水野の心はいくらか平静を取り戻していた。
心にはまだ沢山の迷いや戸惑いがあったのだが…

話題は不破と風祭、という人物の話に移っていった。

「知ってるも何も、理工学部じゃ有名だよ。ノーベル化学賞候補に挙がった不破大六の孫。
長瀬教授のゼミでも研究論文を発表してる。それなりに高い評価を受けてるし…
ただ性格に難ありだな。あとあいつは2年」

「難?」

「まぁ、会ってみれば分かると思うぜ。あんな奴は世界中何処さがしても不破ぐらいだ。
それで、風祭って奴と勝負してたんだよね。何してたか分かる?」

「シュートとキーピングの勝負よ。風祭って子がシュートしてて
不破って子がゴールキーパーやってたみたい。」

「ゴールキーパーか…いまの俺たちはみんなフィールドプレイヤーだから
ゴールキーパーは必要だな。」

「それで、不破に会う手立てはあるのか?」

「簡単だよ、あいつは授業後大抵長瀬教授の実験室にいるからな。そこに行けばいい。」

「なら今日中に決行だ。」

「ついでに教務課にサッカー部の申請をしてみる。通るかわかんねぇけど………。」

「書類は出来てるのか?」

「うん一応。」

「じゃぁ俺が出しとくよ。3.4限ないしな。」

「マジで?んじゃぁ宜しくな。藤村も3.4限ないって言ってたよな。
水野と一緒に居ろよ。」

「…なんでや。」

「監視だよ監視、4限後お前も推研に来いって言ってんの。
もう奇跡の人とは言わせないね。」

藤村の中に先週椎名のいったこの借りは返してもらう。という言葉が浮かぶ。
椎名にはしばらく逆らえそうも無いとそう悟ったのか、藤村はいやいやながらもしたがうことにした。
只気になるのは、水野の事だった。
先週別れを告げてから(そもそも付き合っていた事実も無いのだが)自分の中の何かがおかしい。
歯車が狂ったみたいでぎしぎし言っている感じだ。

そして、さっきの反応。あれは何に対して反応したのだろうか。
それが分かれば、もっと何かがつかめると思うのに。
結局自分は、別れを告げても水野のことに執着している。
これでは何のための別れだったか分からない。

手に入れればよかったのだろうか。
そうすれば気が済んだのだろうか。

けれど脳内に響くのは
10年も前の誰かの声。名前も愛称も忘れてしまった。
覚えてるのはその髪の色と呼ぶ声





『シゲ!』





お前が目の前におったら、迷わずにすんだかも知れんのに










<章=第6話「君が思い出になる前に」>





「タツボン」と「シゲ」   二人だけの呼び名―――。







気まずい。この場の空気を言葉であらわそうものなら、
これ以上ぴったり来るものも無いだろう。
そんな気がする。

3限の10分前になって椎名達と小島はカフェテラスを離れていった。
残されたのは自分と藤村。
極力視線を合わせないようにと思って座った藤村の2こ隣の向かい側の席。
この距離感が、なんとも言いがたい。

他に人が座っている時はさほど気にしなかったのだが
人がいなくなると急激に意識してしまうものだ。

3限が始まって、人はどんどん少なくなっていった。
手元には椎名から渡されたクラブの設立申請書。
一応責任者=部長が椎名になってるがまぁ問題ないだろう。


今現在4つあるグラウンドのうち
部活棟の裏にあるこじんまりとした1コートだけのグラウンドが
開いているはずだ。
其処を抑えれればいい。幸いゴールポストもある。

とにかく、行かなければ…

水野がどうやって行動を始めるか悩んでいると、
藤村が席を立って水野の手元の書類を奪い去った。

「…!」

思わずびくりと震える。

「あ…ごめん……」

「……行くんやろ、教務課。」

「…うん………」

視線を合わせる。
藤村が、本当にシゲなのか確かめなければいけない。
その瞳を見て、それがとても哀しいことだとそう思った。










教務課でのクラブの申請手続きをすませて、二人でどうする?というところまで来た。
あと2時間近く時間はある。一体何をすればいいのだろうか。
推研に行く。という案もあったが
まだ3限のこの時間帯じゃ教室が授業に使われている可能性が高い。

とりあえず二人は一号館の入り口にある自販機の近くの椅子に座った。
水野が話しかける。

「あ、あのさ藤村」

「何?」

「聞きたいことあるんだけど良い?」

「…えぇよ。」

藤村は何故か機嫌が悪いようで言葉が少しきつくなっている。

「お前のその金髪……地毛?」

「染めたんよ。」

「いつ。」

「中学に入る頃にはもう。」

と、言うことは自分と会った小学校時代は染めてない事になる。
シゲは黒髪だった。とても綺麗な黒髪。藤村も、染めてなければそうなのだろうか。

「って何でそんな事きくん?」

「いや…気になって。珍しいだろ。そんな金髪も。」

「おまえかて茶髪やないか。」

「これは地毛だ。」

「ふーん………」

だいたい、これは卑怯な賭けなのだ。
こんな質問で藤村に気づいてもらいたい自分がいる。
藤村がシゲかどうかも分からないのに。

それに二人が同一人物だったとしても、
もう10年も前のことだ。水野を覚えていない可能性だってある。
覚えていても、あの約束を忘れているかもしれない



『俺、タツボンのことすきやで』

『…それ…なぁに?』

『ずっとこの先も一緒な。おれ以外好きになったらあかんで。』

『いいよ。シゲなら。シゲならいいよ。』


…………シゲ………





いつの間にか思い出の世界に浸っていた水野を藤村が静かに見つめていたことに本人は気づいていない。
藤村はそんな水野を呼び覚ますように唐突にこういった。

「……外、行こ。」

「…藤村?」

「煙草吸いたい。」


藤村が席を立って歩き出す。
自動ドアを通り抜けて階段を軽快に降りていく。
大体コイツは今日の会ってからずっと変やねん。
なんどもボーっととるし、本人はそれに気づいとらん。



「おいちょっと待てって…!」


藤村のスピードが速いので駆け足になる。
一段飛ばしで階段を降りていってるので自分の倍は早かった。

「藤村!!」

階段をおりきったところで藤村は待ち構えていた。

「おまえ、何考えとんの?」

「え?」

「昼からずっと変や。ふとしたときにボーっとするし、触るとメチャクチャにビビリよる。変やで。」

そんなの、お前が原因だなんて言えない。

「別に…何も…」

「そうやって隠そうとしてんのもバレバレなんや。昼になにに反応してあんな真っ青になったん?
まだあの日のこと引きずっとるのか?
もう離れよ言うたやないか。それじゃ満足できんか?それとも何、まだ続けたかったん?」

「そういうことじゃない!!!そういうことじゃ…ないんだ…………」

気づいて欲しくない自分。忘れられていたとしたら…
それが怖い。
けど気づいて欲しい自分がいる。
あの日の約束をずっと守ってきたことを褒めて欲しい。
作品名:Last/prologue 作家名:神颯@1110