Last/prologue
あの頃みたいに触れて欲しい。
言葉には出せなくて、でも何かを言いたくて
心が締め付けられる。
お前は本当にシゲなのか。
「俺は………」
口ごもる水野をみて藤村はひとつため息をついた。
「………………もうえぇわ。帰り。俺も帰るわ。」
「帰るって…4限後推研に行くんじゃ…」
「そんなんもうどうでもえぇ。お前が何とでも椎名に言えばえぇわ。」
そういって藤村が歩き出す。
「待てよ…!!待てって!!」
追いかけるか追いかけないか迷う。
引き止めたいのに言葉が見つからない。
そんなことを考えてるうちにもどんどん藤村は遠ざかっていく。
「藤村…!!」
何を、言えばいいんだろう。
「……シゲ!!!!!」
その瞬間の、彼の表情を、なんと表現したらいいのか水野には分からなかった。
驚くように振りかえる。見開かれた瞳。驚愕の表情。
藤村がその足を止めてくれたことに一瞬安堵する水野。
けれど、次の瞬間それはすぐに沈んだ
「…黙れや。」
「…え…」
「その呼び方は、あいつ以外には呼ばせんて小学校の頃に決めたんや。
お前なんかに汚されとうない。」
「ふ…じ…むら………」
「どこでその呼び方知ったか知らへんけどな、たった一回ヤったぐらいでいい気になんなや。
次読んだら容赦なく殴るで。」
「………………」
あぁ、わかった…そういうことか。
うれしかった。シゲがあの時のことを忘れないでいてくれたことが。
うれしかった。あの頃の自分をそんなに大切にしてくれていることが。
けど、気づいてはもらえなかった。それが、哀しかった。
全身全霊で叫びたかった。
お前とサッカーして、お前とずっと一緒にいるって約束したのは俺なんだ!って
おまえは、藤村はシゲだった。
水野はそれを確信した。
そして、それ以上言葉を次げないでいた。
藤村が遠ざかっていく。
もう呼び止めることも出来ない。
ガラスの破片が大量に突き刺さったように心が痛い
心に血液が通っているなら、きっと血が流れてるに違いないと思った。
遠ざかっていくシゲ、
さようなら。
俺は、お前があの頃を忘れずに居てくれただけでもう十分だ。
だからサヨウナラ。
今度は俺が、シゲにさようならを言わなければいけない。
あの日が、思い出の中へ消えていく………
作品名:Last/prologue 作家名:神颯@1110