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Last/prologue

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第7話「偶然と必然」







空は青空。冬の快晴。
1号館の保健室から2号館の脇を通り水野は
3号館2C教室教室に慌てて駆け込んだ。

「悪い!遅くなった!!」

「あ!水野何やってたんだよ!!…あれ藤村は?」

教室の中では椎名をはじめ4人ほど部員がいる。

「藤村?誰だそいつ。」


至極真面目に、水野はそういった。

それが始まり










水野は冗談を言うような人間ではない。
しかもこんな局面では尚更だ。
それが分かっているからこそ、なんの戸惑いも無く発せられた水野の言葉に
椎名は一瞬凍りついた。

「こんな時に冗談はよせって。誰って…藤村だよ。藤村。政経の3年の藤村。」

「…そいつが、どうかしたのか?」

嘘を言っているようには見えなかった。
いつもならそういう嘘はもう少しうまくつけ。と笑い飛ばすところだ。
けれど水野の言動は嘘とは思えないほどに完璧だった。
微塵も、可能性を示唆させない。
表情、声、雰囲気、すべてがそう言っている。
椎名には水野が本気で藤村を元から知らないように思えてしまった。
これって…いわゆる記憶喪失?バカな。
昼には一緒に会ってたんだぞ。会話して、食事して。そのあと二人きりにしたんだ。

「昼に居た。金髪の奴覚えてないか?」

椎名が声を低くして聞く。

「昼は小島とお前と黒川だけだっただろ。」

「…水野…おまえ本気か?」

けれど帰ってきたのは相変わらずな水野の返答。
冗談か。それとも一時的ななにかか。
昼のことだけを覚えてないのかとも思ったが、
金髪の奴、藤村、という名前に反応しないあたり
藤村のこと全てをわすれているっぽい。

「何が……」

「何がって……」

椎名にもにわかに信じがたい事実が、そこに存在していた。

やっぱり…これって……


「部分的記憶喪失」

その時、声が響いた。

とっさに声のした方向を向く。
教室の入り口に小島と不破、そして風祭が居た。
椎名がびっくりしたように大きな声を出す。

「不破大地!」

「お前が俺を呼んだ椎名という奴か。」

今の不破の言葉を察すると、どうやら三人は会話を聞いていたらしい。

「どういうこと?今の。」

小島が眉間にしわを寄せて聞いてきた。

「いや、俺にもわかんねぇ。」

「あぁ小島。と…お前が不破か。あと隣にいるのは…」

「前に言ってた風祭君よ。」

3人が教室の中まで入ってくる。不破は無表情だが
風祭は不破と一緒に長瀬教授の研究室で暇を潰してたところに
いきなり呼び出しを食らって来たので、
その中の様子が少々不穏で不安な表情をしている。

「不破君と風祭君…でいいかな?はじめまして。推研副代表の水野だ。よろしく。」

「あ、はい宜しくお願いします!。」

風祭が頭を下げながら差し出された水野の手を握る。
不破は動かない。

「それで、何なんだ。さっきから。藤村ってやつがどうかしたのか。」

水野が椎名を振り返って問いかけた。
まるで見に覚えの無い罪を責められてるようで少々腹立たしい。

「水野といったな。お前は藤村という人物に心当たりは無いか?」

不破が冷静に言う。

「無いよ。初めて聞く名前だ。」

「そうか。ところでお前はココに来るまで何をしていた?」

「保健室で寝てたよ。」

「何故?」

「頭がガンガンして…気持ち悪かったし吐き気もしたし…多分…」

あれ、よく覚えてない。

「保健室に行く前は?」

「カフェテラスで食事してたよ。椎名達と。」

必死に記憶をたどる。何かが抜けているような気がした。

「ちょっとまて、じゃぁサッカー部の申請書はどうしたんだよ?」

椎名が口を挟んだ。
それをきいて、水野の言葉に迷いが出る。
何かを忘れている…何かを……

「申…請書…………。」

昼間、確かに自分は椎名から申請書を渡された。
昼食後、それを出しに行った筈だ。
けどそれを思い出すことが出来ない。
いつから保健室に居た?正確な時間も分からない。
考えてみれば保健室で頭痛や吐き気を覚えたのは思い出せるが
保健室に入ったときの記憶が無い。

「それが、部分的記憶喪失だ。」

「………部分的記憶喪失?」

言葉をそのまま繰り返した。

「話から察するにお前は藤村という一個人のみの存在を自分の中から抹殺している。
心的外傷性ショックによる部部的記憶喪失の可能性が高い。」

不破が淡々とそう告げた。
その言葉を耳にしながら、うそだろ?という顔をする推研メンバー達。
藤村を知るものも知らないものも皆。
記憶喪失に陥る人間なんてそう多くは無い
いやな事があって忘れたくとも、その多くは忘れられずに人の心に残るものだ。
それなのに記憶喪失に陥ったということは、
それだけ、水野の身に起こったことが本人にとって耐え難いことだったという事実を指し示していた。

ようやく自分の中の異変に気づいたのか水野の顔に焦りが見え始める。
誰かを忘れてしまった。
そいつはどんな奴?
友達?先輩?後輩?先生?教授?

誰?

藤村って、誰なんだ。


「悪い、ちょっと抜ける。すぐ戻ってくるから、水野はここにいろ。
小島さんも。あと不破と風祭って奴も。悪いな。いきなり呼び出したのにこんな状態で。」

「いえ…。」

教室の入り口に向かって椎名が歩き出す。
すれ違いざまに風祭の肩に手を置いて謝罪する。
風祭は目の前でいきなり起きた異変をきちんと認識していた。
その上で返事をする。

そして椎名が教室から出て行った。


「水野君……だったよね。国教の?」

「…あぁ。そうだけど。」

「文章表現法の授業に…いるよね。確か。」

「知ってるのか。」

「うん。僕文学部だから。その授業受けてるんだよ。」

風祭が笑う。

「一度話してみたかったんだ。こんなトコで会えるなんてうれしいよ。」

その笑顔に、幾分か緊張が和らいだ。
普通の会話が出来る。
藤村って奴さえ絡んでなければ、普通の会話が出来る。
それに少しだけ安心した。

「おまえもサッカーやってるのか?」

「うんちょっと大きな怪我しちゃってあれだけど…できるよ。サッカー。いつもはね。
不破君とやってるんだ。高校が同じで…同じサッカー部だったんだよ。
不破君凄くて、僕は負けてばかりだけど楽しいよねサッカー。」


風祭と水野がサッカーで話をし始めたのを見計らって、小島は水野には見えないように不破をつついた。
そのまま外へでるように促す。

水野は外へ出て行く不破と小島をしっかりと視線で捉えていたがあえてそのことには言及しない。
異常が起きているらしいのは、どうやら自分なのだ。

小島と不破が廊下に出ると、其処にはため息をついて携帯を畳んだ椎名が居た。

「椎名さん……」

「今藤村に電話したよ。すぐ来るって。JRの駅にいるらしいからあと30分はかかるだろうけど。
それで、不破、水野は本当に部分的記憶喪失ってやつなのか?」

「そのときの状況を詳しく聞かないと判別できんが、あの様子だとほぼそうだろう。
何が有ったのかはしらん。藤村という人物も俺は知らない。だがあの様子は、昔読んだ
心理学資料にあった患者の症例とそっくりだ。」


部分的記憶喪失。
作品名:Last/prologue 作家名:神颯@1110