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黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 20

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 イズモ村では魔龍、と呼ばれるオロチは、どれほど傷を負っても死ぬことがない。そのために、何らかの要因で、いつオロチが封印を解いてしまったとしても、それを止めるための力が必要であった。
 その力の一つが、太陽の巫女である。
 しかし、太陽の巫女でいる為には、純潔なる肉体を持っていなければならなかった。
 もしも齢三十を超え、役目を終えて次の巫女に力を渡す前に、処女を失ってしまえば、太陽の巫女の力そのものが消えてなくなってしまう運命にある。
「それは確か以前に、ヒナさん仰っていましたね……」
 イワンは覚えていた。自らに発現したエナジーを鍛える修行の過程で、彼に伝わってきた事である。
「よく覚えていたわね、イワン。そう、あたしは太陽の巫女。普通、人は十七やそこらになれば、結婚して子をもうけて幸せな家庭を築く。でも、あたしにはそれは絶対に訪れない幸せ。だんだん結婚適齢期を逃していくにつれあたしは、太陽の巫女である自分を恨むようになっていった……」
 それはヒナだけでなく、先代、先々代の太陽の巫女とて持ったであろう、感情であった。
 巫女であるが故に、人並みの幸せを得ることができない悲しみ、憎悪の念を特に大きく持った者が、ヒナの前代にいた。
「この不妊の丸薬は、あたしの四代くらい前かしら、その人が幸せに過ごす夫婦を見る事による羨ましさ、そして妬ましさを形にしたものなのよ。表向きは妊娠中の滋養強壮のため、そして本当の目的は、妊婦を流産させて、ぶつけようのない憎しみを、少しでも晴らすために、ね……」
 ヒナは、不妊の丸薬の生い立ちを、全て話した。それは太陽の巫女なる存在意義が故に生まれ出た、あまりにも悲しい話であった。
「ふふふ……、身勝手なものよね。自分が得られないからって、他人の幸せを奪うなんて。そんなの、仮にも聖者なのに、巫女失格よね」
 こんな薬を作ろうと考えた巫女の
顔が見てみたい、とヒナは自嘲するように笑う。
「そんな理由があったと言うのですか……」
 ハモは、その薬を使い、または使われた妊婦や太陽の巫女の気持ちを考え、悲しくなった。人の憎しみは、どうしてこうも悲哀に満ちているのか。
「当然、こんな薬はすぐに封印されたわ。これが滋養強壮の特効薬だ、なんてみんなに広まったら、村に人がいなくなっちゃうわ」
 巫女自らが封じたのか、それともその時代の人によって、夫婦に渡らなくなったのか。真意は定かではないが、長い間、不妊の丸薬の存在は忘れ去られていた。現在の太陽の巫女、ヒナが見つけ出すまで。
「ですが、どうして今になって、また存在が明るみに出たのですか?」
 ロビンが訊ねる。
「存在そのものは忘れ去られたけど、伝承は途絶えることなく後世に伝わっていたわ。ある時、子を宿した女が、次々に流産を繰り返した、っていう具合にね」
 しかし、イズモ村の伝承にはこの程度の事しかなかった。何が原因で流産が続いたのか。詳しく書かれた歴史書の類はない。
 だが、太陽の巫女に関して詳しく綴られた伝承は別であった。
 禁忌として、不妊の丸薬の存在が綴られており、二度と世に出すべからず、と書かれていたのである。
 しかし、太陽の巫女の伝承にも、そのような薬があった、という程度のことしか書かれてはおらず、作り方どころか材料も知り得るものではなかった。
 そこでヒナが講じた策は、様々な古文書を虱潰しに繰ることだった。
 薬学的なものはもちろん、当時のイズモ村の食文化、生活様式、当時の人が書いたと思われる日記など、一見すればまるで関係ないものまで調べ上げた。
 そしてようやく、滋養強壮効果があるがその代わり、食した者に不妊の効果を与える丸薬の情報にたどり着くことができた。どうやらそれは、ある薬師が独自に研究し、効力、味などから材料を突き止めたようだった。日記の類を調べる内に、見つけ出せたのだ。
 それからヒナは、その薬の滋養強壮効果に目を付け、元々は不妊症を招くためのものであったそれを、独自に手を加えることによって、超兵糧丸として作り上げたのだった。
「あたしは、みんなに稽古を付ける傍ら、色んな資料を読みふけっていたわ。デュラハンを倒すにはかなりのパワーアップが必要になると思ったのよ。そのために修行するには、時間があまりにも無さ過ぎた。だからあたしは、超兵糧丸の調合に携わることにしたの……」
 幸いにも、材料はこの近辺で集められた。材料の肝となる、特別なカエルの生息地がまさにここ、アルファ山の麓であったのである。
 このカエルこそが、滋養強壮の根源になるものだった。そして同時に、不妊効果をもたらすものでもあった。
 滋養強壮を地力の強化とするには、更に複雑な調合が必要となった。しかしそれは、本来の作用である不妊効果も強めてしまう事になってしまった。
 強壮効果と不妊効果は、切り離すことができないようになっており、どちらかが増大すれば、もう片方も比例して増大した。
 結果として、超兵糧丸は飲んだ者に凄まじい増強効果を与えると同時に、年単位での不妊効果までも与えてしまう代物となってしまった。
「あたしは何とか、不妊の副作用が消えるように色々調合したわ。これから先に子をなして家庭を築くだろう、みんなの事を考えてね。けれど、無理だった。一粒で一年、ロビンは七粒食べたから七年は子供を作れないでしょうね……」
 世界を救うためとは言え、ロビン達若者の将来を狂わせるような真似をしてしまった。
 自責の念が、ヒナを支配した。
「ふう、やれやれ、話は終わりか……?」
 ジェラルドは欠伸混じりに訊ねる。
「えっ!?」
 それだけ、とヒナは驚く。
 家庭を築くという幸せを、奪ったに等しい事をしたヒナは、散々非難の言葉を浴びせられるであろうと覚悟していた。
 しかしジェラルドは、まるでこれまでヒナが話したことは、ほとんど聞いていなかったかのような様子を見せた。故に出た反応であった。
「何だかオレにはさっぱりな話だったけど、これだけは分かるぜ。確かに味については恨むけど、あんたは激マズ玉でオレ達を強くしてくれようとしてくれたんだろ?」
「ジェラルド、もっと言葉を選んだらどうですか? まあ、確かに味については同意しますが、ヒナさんは姉さんを救ってくれた恩人。ボクはそう思いますね」
「確かに、あのままでは私は遅かれ早かれ死んでいたことでしょう。ヒナさんには感謝してもしきれません……」
 ジェラルドもイワンもハモも、ヒナを一切責めようと言うつもりがなかった。むしろ、皆一様に感謝の念を持っている。
「みんな、どうして? あたしのせいでもしかしたら、子供が一生出来なくなるかも知れないのに……」
 一生不妊にたらしめるような事はないと、ヒナは考えてはいたが、効果が出すぎた為に一生不妊になる、という可能性は拭いきれなかった。
「今デュラハンに負けてしまえば、同じ事だとは思わないか? ヒナ殿」
「ガルシアの言う通りですよ。僕達がデュラハンに敗れ、ウェイアードが暗黒に包まれれば、どの道人間は生きられません。それに、僕はレムリアの民。どうせ子供なんか百年に一度誕生するかどうか分からないんです。どうか気にしないでください」
「ガルシア、ピカード……」