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幾度でも、君とならば恋をしよう

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「ん……さ、が?」

 深い眠りについていたところを抱き起こされてものだから、半分は眠ったままの状態でサガの身体に抱きついた。甘ったるい香りが鼻腔を掠めた。普段のサガとは違う香りのような気もしたが、気のせいだろうと厚い胸板に顔をすり寄せる。

「ん、よしよし」

 優しく撫でられ、気持ち良くなって、そのままトロリとした眠りの中につこうとしたのだが。

「―――ほ〜う……?貴様、私のシャカに何をしているのだ。カノンよ」

 絶対零度の声と続いて起こった爆音。私たちがいた場所が木っ端微塵に砕かれている。私を抱いたまま、その場所から間一髪逃れた人物は悪気なく、軽い調子で言い放った。

「ちっ、帰って来やがったか、サガ。あとちょっとでイイところだったのに」
「……え?えぇっ?」

 私をぎゅっと抱きしめていたのはサガではなく、弟のカノンであった。最悪な事態だと認識したと同時にサガの二発目の攻撃が向けられた。

「ちょ、サガ、冗談だってば!マジになんなよなっ!」

 あくまでも軽い調子でそう言い放ったカノンはそのまま、ほいっと拳を振り上げようとしていたサガに向かって、私を放り投げた。
 サガがそのまま攻撃せずに抱き止めてくれたから、幸いにも私は床に激突せずに済んだ。私はモノではないぞと強く抗議しようとしたが、ちらりと一瞥をくれたサガの表情で押し黙った。
 これは……かなりマズイ。非常に危機的状況である。泣かされる、絶対、確実に、泣かされるっ!心の中で悲鳴を上げた。
 ここは逃げるが勝ちだとジタバタとサガの腕の中でもがいてみせるが、昼間同様、サガはしっかり私を逃すまいとしていた。

「それで何をしにきたのだ。金でもたかりに来たのか。まさかとは思うが私のシャカにいかがわしいことをしに来たとか気色の悪いことを言うなよ、この万年金欠愚弟よ」

 サガはまるで冥界のコキュートスを思わせる冷気を纏いながら、同じ顔を睨みつけていた。

「ふざけんな、ハゲ。いかがわしいのはてめぇの方だろうが。風の便りに聖域で祭りが催されるって聞いたから、覗きにきただけだっつーの。大体だな、少な過ぎなんだよ、小遣いが!とっくに金ねぇんだよ、小遣い寄越せ、この変態ドケチが」

 ああ、いつもの兄弟喧嘩がまた始まったと両耳を手で塞いだ。いつもは冷静沈着なサガも、こと、このカノンが絡むと、まるっきり子供の喧嘩になるのである。
 「バカ」だの「ハゲ」だの仕舞いには「おまえの母ちゃん出ベソ」「イ○キ○タムシ」だとか、それはそれは低俗な言い争いへと化すのだ。
 一種の彼らなりのコミュニケーションなのだろうが、正直あまり感心しない。
 ひと時の間、罵り合うだけ罵って、ようやく互いに満足したようだ。毎度のことながら、どう話を決着させたのか、結局最後には幾らかの小遣いをせしめたらしいカノンは「じゃ、当日顔を出すわ」と笑顔満面で出て行った。送り出すサガも若干、歪んでいたが笑顔である。

「彼も来るのかね、宴に」

 両耳を塞いでいた手を退けて、サガに尋ねる。相変わらずサガは私を胸に抱いたままでいた。ん?と顔を私に向けて「ああ」と短く答えると、少し浮かべていた笑顔がサッと消えた。どうやら、怒っているようである、

「ところで、シャカ。あれはどういうことだ?」
「あれは……忘れてくれ。ただ寝惚けて、君と間違えただけなのだから」
「寝惚けていたから、カノンとこの私を間違えたのか。ほう……」

 にっこりと口元をつり上げたサガの目は剣呑さを増すばかり。ひんやりとした空気に凍り付きそうである、

「サガ、だから……その……」

 この状態のサガに何を言い訳したって通用しないことはとっくの昔にわかってはいたのだが。

「これはもう―――眠っていてもわかるくらい、その身体にみっちりと、この私を教え込まないといけないようだな、シャカ?」

 本日二度目のうっとりと蕩けるような天使の笑顔を向けながら、悪魔な宣言を言い放つサガに、私は思いっきり目を剥いたのだった。