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幾度でも、君とならば恋をしよう

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「言ったであろう、アテナの力は恐るべし、と」
「大した破壊力だな……あ、金魚が」

 服に紛れ込んでいたらしい。ぴちぴちとサガの掌に小さな金魚が必死になって動いていた。すっと目を閉じたサガはその金魚をどこかに飛ばした。
 水も滴るいい男―――といいたいところだが、如何せん、魚臭いのは頂けない。うっかりアテナの地雷を踏んだサガは以前の私のように突き飛ばされた。目の前の金魚が泳ぐ水槽に、だ。危うく私も巻き添えになるとこだったが、かろうじて難を逃れた。
 きゃぁきゃぁプチパニックなアテナを他所に「これではサガすくいだな」と嘯く一輝に思わず座布団一枚、くれてやりたい気がしたが、ずっと、そのままにしているわけにもいかないので、皆が祭りを楽しむ中、私たちは十二宮……をすっ飛ばして教皇宮に居た。
 サガ御用立ち入浴場である。「おまえも来るか?」というサガを容赦なく風呂場に放り込んだあと、教皇宮にひっそりとある中庭で暇を潰す。あまり訪れることはないが、庭師の手入れが行き届き、小さいながらも美しい庭だった。
 背もたれにはちょうど良い大きさの木と青々とした芝生のある場所で腰を下ろし、サガを待つ。すっかり辺りは夕闇に包まれ、空を見上げれば星が瞬いていた。彼は長風呂だから、しばらくうたた寝でもしようと甘い眠りへと身を委ねる。
 小一時間ほど経ったのだろうか。気配を感じて瞼を開けると、間近にあったサガの顔が少し離れた。

「……キス、しただろう?」
「ああ。目覚めのキスをな」

 微笑に惹き付けられるようにサガに傾き、鼻をすり寄せる。風呂上がりというのもあるが、サガのいい香りを思い切り吸い込んだ。
 心地よくて、何よりも落ち着く。サガの香りを楽しんでいると、サガは私に施されていた髪飾りを一つずつ取り除いて、最後には纏め上げていた紐を解いた。
 サガはぱさりと無造作に落ちる髪を丁寧に指で梳いたあと、顎を捉えて上向かせた。自然、サガと目が合う。満足そうにサガは笑みを浮かべていた。

「うん。やはりシャカだ」
「当然だろう。何を言い出すのかね」

 眉間のあたりにキスをされて、くすぐったさに身を捩る。

「うっかり一目惚れしたさっきのシャカも、今のいつも通りの姿のシャカも同じシャカだと思ったら、私は何度だっておまえに……おまえだけに惚れるのだろうなと再認識したら、少し自分が誇らしく、嬉しくなった」

 滑り落ちてくる口付けを受け止めながら、サガの惚気を聞かされて、頬が熱くて堪らなかったが、幸いにも闇が隠してくれた。
 その闇夜に向かって打ち上げられた花火の音が響き渡った。その音に紛れ込ませるようにして私も告げる。


 ―――幾度でも、君とならば恋をしよう、と。








〜 了 〜