鎧武外伝 仮面ライダー神武
「…初瀬は力に固執した揚句、冷静さを失って実を食べたんだ。悪く言うつもりはないが、もう少し頭を冷やして考えることが出来たなら、あんなことになる事もなかっただろう。」
知記は冷静に、かつ子供に諭すような口調で言ってのけた。
「だから、お前も少し冷静になれ。仲間をあんな形で失った気持ちは分かる。だからこそ、もっとよく考えて行動するべきなんだ。」
自然に、紘太の手は離れていった。その顔は、見えづらく俯いていた。
「そんな顔じゃ、明日が思いやられるぞ、葛葉。」
知記は振り返り、もともと向いていた方を向き歩き出した。
「待てよ、知記。」
紘太もそれに倣って歩く。歩きながらなおも訊く。
「お前は、力に固執しないのか。」
知記は振り返らず、歩き続けながら答えた。
「俺は俺が守りたいものが守れるだけの力があればそれでいい。」
「…そうか。」
紘太は小さく頷く。その胸中では、いろいろな思いが渦巻いていた。
次の日の事。
合同ダンスイベントは、観客、中継共に大盛況の後に終わった。
知記はその日、サガラに会っていた。
「よう、知記。」
サガラは、いつも通りスポーツウェアのような恰好をしていた。
「何の用だ、サガラ。俺は今日はビートライダーズからの雇われ仕事で疲れているんだが。」
知記は今日は、今まで合同ダンスイベント会場に近寄るインベス達の駆逐を紘太達から頼まれ、それを行っていた。ざっと十体前後は倒したらしい。
「それは悪かったな。まあ、知っていたけどな。」
「そんなことで、ただ呼び出したというわけではないだろう。用件はなんだ。」
突然呼び出しを食らい、ご機嫌ななめな様子を醸し出す知記。
そんな知記をサガラは宥めた。
「まあまあ、俺は今のお前に必要な情報を持ってきただけだよ。」
その一言で知記は顔を訝しめる。
「…頼んでいたオーバーロードに関する事か?」
「ああ。どうやら、森の奥に潜んでいるらしいぜ。」
「奥か…。まだ調べたことはなかったな。」
「行く気か?」
確認をとるサガラ。
その知記の手には、ロックビークル<ダンデライナー>が握られていた。
「行くしかないだろ。あいつらに黄金の果実を渡すわけにはいかない。」
「ほう…。だったら、これが必要だな。」
サガラはあるものを取り出し、知記に渡す。
「メロンエナジーロックシード…。」
それはクリアブルーのボディと、グリーンとオレンジで構成されたキャストパッドを持つロックシードだった。
その中央部には、ELS-04と刻印されている。
「また無茶しやがって。」
「俺は何もしてないよ。」
「惚けるな。葛葉から聞いている。」
サガラは少し驚いた表情をして知記に言う。どうやら今回も、戦極凌馬から黙って拝借したものらしい。
「戦極凌馬達に言うか?」
「お前にはまだあいつらに捕まったりしてもらっちゃ困るんだよ。」
そこに隠された意図があったのかなかったのか。あったとして、それを読み取ったのか読み取れなかったのか。サガラは少し微笑み、フッとその姿を消した。
「…あいつ。」
少しつぶやき、知記はダンデライナーを解錠してそれに跨がりヘルヘイムへと向かった。
サガラはある場所にいた。そこは暗く、冷たい場所だった。
「言い付け通り、伝えてきたぞ。」
民族衣装を身に纏ったサガラは、暗くて何も見えない先に話しかける。
「<そうか>。」
サガラは日本語で話しかけるが、話し相手は日本語ではない、それこそ地球にある言語ではない言葉で返事した。
「<これから奴が、どんな風に行動するか見物だな>。」
サガラは、話し相手に向かって樮笑む。
「<何がおかしい>。」
「いやぁ、あんたが思ってるほどそんなに簡単な話じゃないかもしれないぞ。」
「<それならそれで結構。わたしは見守るだけだ>。」
サガラの話し相手は、自身のスタンスを貫くつもりらしい。
そんな男を、サガラは面白くないと感じていた。
「<…<蛇>よ、お前が何をするかは勝手だが、私はこれを渡すつもりはないぞ>。」
「それは、人間が決めることだ。俺の一存じゃ決められないよ。」
男の手には、黄金色に輝く果実が握られていた。それでもなお男の体は輝きを保っていた。
二週間後。
知記はダンデライナーを駆ってヘルヘイムの森を疾走していた。この二週間、知記はずっと森を駆けていた。食料の心配はいらないが、時間は無慈悲に過ぎ去って行くだけだった。一応目星を付けて走っているものの、探しているものが見つかる様子はなかった。
その時だった。
「…ん?」
ダンデライナーで地面から二メートルほどを走っていると、真下に黒い服を着た人間が見えた。
―ユグドラシルの関係者か?
知記は引き返し、ホバーバイクを降りて錠前に戻した。
「なあ、あんた。ユグドラシルの関係者か?」
そして黒服に話しかける。振り返ったそれは、どうやら男らしかった。
「何の用だ…と言いたいところだが、貴様仮面ライダーか。」
「仮面ライダー?アーマードライダーの間違いじゃないのか?」
「どちらにしても変わらん。貴様の持つ戦極ドライバーをもらい受ける。」
男はロックシードを取り出し、解錠した。
『フィフティーン』
すると、人の骨を模したような見た目のクラックが開いた。
「クラック!?しかも、現実世界と違う場所だと!?」
男は開いたクラックに手を入れ、何かを取り出すそれは、刃の長い片手直剣だった。
「見たことないロックシード…。俺のモノと同じ突然変位か?」
目の前の出来事に対して、知記は冷静だった。知記の言う"俺のモノ"とは、知記の持つブラッドオレンジロックシードだろう。知記は事後報告を受けて知ったことだが、知記が倒れて眠っている間、戦極凌馬がそれを調べていた。凌馬の調べでは、構造的にはLS-07オレンジロックシードとよく似ているが、そのロックシードの中から知記のDNAが検出されたらしい。おそらく、知記が血に濡れた手で果実を手にとったことにより混入したモノだろう。そのせいでロックシードが変化したというのが凌馬の弁だ。
「何をわけのわからないことを言っている。」
男は手に入れた剣を振り回し知記を襲う。知記はそれを避けて見せる。ただし攻撃が早く、避けるので手一杯になっていた。いくつかのアクションの末、知記に剣の攻撃が命中した。かろうじてかすり傷ではあったものの、当たり所が悪かった。剣が当たり、服が裂けた場所から戦極ドライバーが転がり落ちた。それは凌馬が修理している知記のモノではなく、もともと武神鎧武が使っていたそれだった。
「おお、これだ。これを探していたんだ。」
男はベルトを拾い上げ、握り締める。
知記は傷―戦極ドライバーに守られ、打撲傷のみが残った―を庇いながら立ち上がり告げた。
「その戦極ドライバーは、武神鎧武とか言う怪人がイニシャライズしてるから、誰も着けられないぞ。」
「関係ない。このフィフティーンロックシードにかかればな。」
作品名:鎧武外伝 仮面ライダー神武 作家名:無未河 大智/TTjr