鎧武外伝 仮面ライダー神武
固まっているインベスに狙いを定めて引き金を引く。
『オレンジチャージ』『ブラッドオレンジチャージ』
大量のフルーツで形成されたエネルギーが銃口から発射され、そのエネルギー弾がインベスを貫き、爆散させた。
「はぁ…。」
「これで全部か。」
二人はロックシードのキャストパッドを閉じ、変身を解除した。
「…それで、どういうことだよ。」
「何がだ。」
「惚けるな!なんであの赤いオーバーロードの名前を知ってるんだって聞いてるんだよ!」
惚ける知記を問い詰める紘太。その顔は真剣そのものだった。
当の知記は面倒臭そうな顔をしていた。
「ああ、それか。まあ、先ずはこれを見ろ。」
知記はそういうと、少し目を閉じて体を変化させた。無論、それはフェムシンムとしての姿だ。
「…なんだよ、お前オーバーロードだったのか?」
「ああ。前に記憶がないって言ったが、このせいだ。少し前に俺達のの王に会ってな。その時に記憶の封印を解かれた。」
知記は努めて冷静に話をする。
それを感じてか、紘太も冷静になろうとする。
「それで、俺の本当の名前はグリンフェという。一応、王の側近をやってた。まあ、好きに呼んでくれ。」
話した感じは人間としての姿と変わらない。だが見た目が変わるとまるで別人のように感じる。
紘太がいい例だった。
「それじゃあ、なんでお前はこっちに来てたんだ?」
こうは言うが、紘太はグリンフェを警戒していた。目の前にいるのは怪物だ。話し合いの通じなかったそれの仲間。それだけでも警戒に値する。
「王の命令で、こっちの世界を探ってこいって事だったんだ。まあ、そのおかげでこっちの世界に情が芽生えて、オーバーロードを裏切ることになったんだけどな。」
「オーバーロードを裏切った?」
「ああ。嘘だと思うなら、貴虎にでも聞いてくれ。あいつはそばにいたから全部知ってるよ。」
「貴虎!?貴虎も知ってるのか!?てか、お前貴虎と知り合いなのかよ!」
様々な事実を話すグリンフェに疑問を重ねる紘太。
いよいよグリンフェはそれを裁ききれなくなっていた。
「待て待て。順番に説明するから。」
グリンフェは一度紘太を制し、姿を人間の姿に戻して話を進めた。
「まず、貴虎は事情があってオーバーロードの捕虜になっていたのを俺が助けた。その時に俺の記憶の封印が解かれて、その後オーバーロードを裏切るって王に言ってきた。そんで、今に至ると。」
いったん一呼吸置き、再度説明を続ける。
「そんで貴虎の事だが、記憶喪失だった頃の俺の面倒を見てくれていたのは、他でもない貴虎だ。だから光実とも知り合いだった、ということだ。」
「じゃあ、ミッチと貴虎が兄弟だって知ってて黙ってたのか?」
「…すまない。」
知記は俯き、紘太から視線を外す。
「なんで…?」
「あの時は、光実は本気でお前達と共にいようとしていた。俺はそれを信じただけだった。だがまさか、あんな事になるとは思ってなかったよ。」
「…そうだったのか。悪い。」
「いいさ。誰にでも感情的になることはあるさ。」
その時だ。
以前知記に托された通信機に通信が入った。
「ああ、俺だ。…わかった。今から行く。」
通信を切り、紘太に向き直る。
「悪い。ちょっと用が出来たから俺行くわ。」
「あ、ああ。」
知記は着ているパーカーを翻し、目的地へと向かう。だがその前に一言呟く。
「葛葉、その力、よく考えて使えよ。後悔だけはしないように、な。」
それだけ呟くと、知記は走り出した。
紘太は、その言葉を理解することは出来なかった。
通信機で呼び出されて直ぐ。
知記は呉島邸へと向かった。通信の発信主は呉島貴虎。話したい事がある、ということで、知記は呼び出された。
知記が呉島邸へ着くと、貴虎がPCに向かって何かをしているところだった。
「貴虎、一体何をするつもりだ。」
その画面には、『complete』という文字が踊っていた。
「俺は、俺の責務を果たす。それが俺の使命だ。」
「使命って…。そんな体で、いまさら何をするつもりだ。」
貴虎のその体は、凌馬達に裏切られ崖から転落した時についた傷がほぼ残っていた。ロシュオに手当されたとはいえ、その体ではとても動けるようなものではなかった。
「決まっている。この手で、光実を止める。」
「無理に決まってるだろ!奴の手にはお前のゲネシスドライバーがあるんだろう?例え戦極ドライバーを使ったとしても、実力の差で埋まるとは到底―。」
「わかっている。それでも、俺がやらないといけない。」
貴虎はじっと知記の目を見る。
知記はその瞳の奥に貴虎の思いを見た。俺にやらせてくれ。そう訴えかけるような目だ。
「…そこまで言うなら、止めない。だけど…。」
知記はポケットから何かを取り出し、それを机の上に置く。それは、知記のゲネシスコアとメロンエナジーロックシードだ。
「これを持って行け。餞別だ。これで多少は楽に戦えるはずだ。」
しかし貴虎はそれには手をかけず、前に進み出て知記の肩に手を置いて告げた。
「気持ちだけ受け取っておく。それでは、お前が戦いにくくなるだろう。」
「だが…。」
「必ず生きて戻る。例え、光実を殺してしまっても。」
知記は、その後何も言うことは出来なかった。それだけ貴虎の覚悟が強かったということだ。知記はただその拳をにぎりしめることしか出来なかった。
翌日。
知記は沢芽市を駆けていた。勿論、貴虎を探し、場合によっては加勢するためだ。しかしいくら探そうとそれらしきモノは見えない。
やがて港付近に近づき、またそこを探して見つからなかったら諦めようと思っていたその時だ。走っているところを何者かに襲われ知記は転倒した。
「誰だこの忙しい時に!」
知記は苛立ちながら振り返り、その者を見据える。それは、斧を抱え甲羅を背負い蛇を纏った、玄武の姿を模した怪物だった。知記はその怪物の名を知っていた。
「シンムグルン…。」
それは、一時期知記の部下として共に戦ったフェムシンムの戦士だった。
「済まないが、レデュエ様の命令でここを通すわけにはいかない。」
「つまりこの先であの兄弟が戦っているということか。おかげで少し状況がシンプルになった、礼を言う。」
「裏切り者の貴様が知ったことではない。」
知記が真実を述べるも、シンムグルンは惚けて見せた。
「なあ、昔のよしみだ。通してくれよ。」
「どの口をもってそういうか。」
「そうかい。じゃあ、力ずくでも通してもらおうか。」
知記は身につけていたベルトからヒマワリロックシードとライダーインジゲータを外し、ゲネシスコアを取り付ける。そして二つのロックシードを解錠した。
『ブラッドカチドキ オー』『メロンエナジー』
「変身。」
ロックシードをベルトに取り付けて錠を閉め、カッティングブレードで切る。
『ミックス ブラッドカチドキアームズ いざ進撃 エイエイオー ジンバーメロン ハハァ』
頭上に現れたブラッドカチドキアームズとメロンエナジーアームズが融合しカチドキジンバーアームズが現れる。
それが知記に覆いかぶさり変形し変身が完了する。
「レデュエ様の言うとおりだ。また妙な姿に変わるな。」
作品名:鎧武外伝 仮面ライダー神武 作家名:無未河 大智/TTjr