二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

For the future !

INDEX|27ページ/39ページ|

次のページ前のページ
 

二年目九月上旬 日本学生選手権水泳競技大会(インカレ) 三日目・最終日




今日は横浜国際プールで三日間にわたって行われる日本学生選手権水泳競技大会の三日目、つまり最終日である。
まもなく男子フリー100メートルの決勝だ。
予選で九位から十六位までの選手たちによるB決勝は先に行われた。
B決勝の選手たちは普通の出入り口から入場し、それから、スタート台の近くで名前と大学名を紹介される。
予選で八位以内に入って決勝に進出した選手たちは、それとは入場の仕方が異なる。
遙はいつもの無表情で自分の順番を待っていた。
スポーツシューズを履き、水着の上にはスポーツウェアのパンツ、そして大学名の入ったガウンを着ている。スイミングキャップにも大学名が入っている。JAPANの文字が入っていないスイミングキャップで大会の試合に出るのはひさしぶりだ。
やがて、遙の番が来た。
入場する。
華やかな赤いゲートに立つ。
「第四レーン、七瀬遙」
名前のあとに大学名もコールされた。
第四レーンは予選トップ通過を意味する。
名前や大学名をコールされたときにVサインをする選手や手を力強く振りあげたりする選手もいるが、愛想の無い遙はクールな表情を崩さずに軽く頭を下げただけだった。
インカレはテレビ放送され、地上波では来週末に、CSでは昨日の二日目が録画放送で、一昨日の一日目と本日三日目は生中継だ。
無表情のまま遙は決勝の入場ルートであるプールサイドを進んでいく。
プールサイドには各大学の水泳部員たちが応援団を作っている。
まるで、花道。
このプールサイドでの応援はどの大学の水泳部員でもできるわけではない。
インカレではシード校が設定される。
個人およびリレーの順位ごとのポイントが所属大学ごとに合計され、個人ではなく、男女別の大学の順位が決まる。
今、このプールサイドで応援しているのは、昨年のインカレでシード枠を獲得した上位八大学の水泳部員たちだ。シード校以外の大学の水泳部員たちは二階の観客席での応援になる。
各大学の水泳部員たちは、それぞれの大学ごとにそろいのTシャツとショートパンツを着て、応援している。
遙が在籍している大学もシード校で、だから、このプールサイドに応援席がある。
その応援席の近くまで進んだ。
遙に手が差し出される。いくつもの手。同じ大学の水泳部員たちの手だ。
手を差し出したのは、ともに厳しい練習を乗り越えてきた仲間にタッチし、気持ちを注入するためである。この応援をするために、シード校入りを目指すのだ。
自分のほうに差し出された、たくさんの手を見て、遙の脳裏に、ある言葉が浮かんできた。
For the Team
それは凛が小学校の卒業記念制作で作った花壇のレンガに書いたメッセージであり、高校二年のときに出場した地方大会の会場の片隅にあった桜の樹の下に遙が書いた言葉だ。
遙は思う。
凛、おまえにこの景色を見せてやりたい。
凛ならきっと胸を熱くするだろう。
いや。
遙は差し出された手にタッチしていく。
「七瀬、頼んだ!」
この大会で引退する四年生から声をかけられた。
胸にわいてくるものがあるのを感じた。
それは、熱。
凛ならじゃない、自分だって胸が熱くなっている。
最高の順位を、最高のポイントを獲得することを期待されながら、その期待を背負って遙は毅然と歩く。
冷静な表情のまま熱い想いを胸に秘め、スタート台のほうへと進んでいく。

遙は男子フリー100メートルの決勝で一位になった。
自身の持つ日本記録を更新するタイムではなかったが、大会新の記録を出しての一位だった。もっとも、その更新するまえの大会記録は、遙が昨年出したタイムだった。その昨年のインカレの男子フリー100メートルのタイムが派遣標準基準?を突破したから注目選手として扱われるようになったのだった。
そして、今は男子400メートルメドレーリレーの決勝である。
入場の方法は個人種目とあまり変わりはなく、違いと言えば、もちろんメンバー四人一緒であることと、先に大学名がコールされて、そのあとメンバーの名字のみが紹介されるぐらいだ。
個人種目とリレーの大きな違いは、配点だ。インカレは各大学ごとのポイントの合計で順位が決まるという団体戦だが、そのポイントがリレーは個人種目の二倍なのである。
今日は最終日だから順位が決まる。それだけに、試合に向けられる視線はいっそう熱くなっている。
遙は去年のインカレの男子400メートルメドレーリレーには出ていない。去年のこの種目の第四泳者、フリーを泳いだのは四年生だった。
純粋にタイムで選ぶなら遙だった。しかし、去年の遙には実績が無さすぎた。
故郷である岩鳶でのんびりと過ごしていた遙は特に関心を持っていなかったが、国内大会に全国JOCジュニアオリンピックカップという大会が春季と夏季の年二回あり、十歳以下から十六歳までと年齢別に各種目の競技が行われ、そこで活躍した小学生を対象にエリート小学生研修合宿が行われたりしている。その合宿からジュニア遠征や日本選手権でも活躍する選手が増えているらしい。また、ジュニアエリート強化選手とインターナショナル強化選手の合同合宿が行われたりもしている。
国際大会では、ジュニアパンパシフィック大会に中学生や高校生が出場しているし、ユースオリンピック大会に高校生が出場している。
遙が先月下旬に出場したばかりのジュニアの付かないパンパシフィック選手権に日本代表選手として出場した高校生もいた。
それらの選手たちと比べると、遙と凛は出遅れ感があるし、エリートに対して雑草だとも言える。
だからと言って差別されることはないが、昨年は重要なリレーのアンカーを選ぶ際には実績が考慮されて遙ではなく四年生が選ばれたのだろう。
今、プールでは第三泳者がバタフライを泳いでいて、折り返してきている。
遙はスタート台に立ってそれを見る。
現在一位の第三泳者と遙の大学の第三泳者との差は身体ひとつ分ぐらいか。
やがて、現在一位の第三泳者が壁面にタッチする。同時に、その大学の第四泳者、アンカーが飛び込んでいく。
遙の大学の第三泳者もやってくる。
リレーは個人種目の二倍の配点、だから、引き継ぎ違反があれば一気に順位が落ちてしまう。
でも、慎重になりすぎてもいけない。
遙の大学の第三泳者がタッチする。
スタート台を蹴り、第三泳者の頭上を遙は飛ぶ。
着水する。
綺麗なスタートだった。
泳ぐ。
現在一位との差は身体ひとつ分ぐらい。
追いかける。
ふと。
高校三年に進級したばかりの春に参加した市民大会で凛に言われたことを思い出した。遙が記録なんてどうでもいいと言ったのに対して、言い返してきた台詞だ。
勝ち負けや記録に興味なくても、水の中じゃ、てめえが一番だって思ってんだろ?
そして、今、水の中を進みながら思う。
速く、だれよりも速く泳ぎたい。
遙は一位の選手に追いついていく。
その差は、もう身体半分ぐらい。
それを実況が興奮気味に伝えている。
ターンする。
ぐん、と水の中を大きく伸びるように進んでいく。
遙は残念ながらターンでは凛に負ける。
だが、凛以外には負けない、負けたくない。
身体が水面に出たときには、遙は一位の選手と並んでいた。
間を置かず、抜き去る。
遙が一位となり、二位以下との差をどんどん広げていく。
作品名:For the future ! 作家名:hujio