二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

For the future !

INDEX|34ページ/39ページ|

次のページ前のページ
 

二年目九月下旬 アジア大会競泳競技第四日目



眠ろうとしても眠れず、時はどんどん過ぎていき、もう眠れないのかもしれないとも思ったが、いつのまにか遙の意識は途切れていた。
眠りに落ちたのはいつもよりもかなり遅い時間だった。それでも遙はいつもの時刻に目覚めた。しかし、身体をベッドから起こさず、眼も閉じたままでいた。
隣のベッドで凛が起きる音が聞こえてきた。だが、遙は動かずにいる。
今日はアジア大会競泳競技第四日目だ。
凛がエントリーしている男子バタフライ100メートルが行われる。
やがて、凛が部屋から出て行ったのを感じた。
ようやく遙は上半身を起こした。
明日はアジア大会競泳競技第五日目、遙と凛がエントリーしている男子フリー100メートルが行われる。
練習に行かなければならない。

日本代表のユニフォームであるジャージを着て、水着などが入ったハッグを持ち、遙は外を歩いていた。
朝食を採ったあと、選手村から大会会場へと向かうバスに乗りに行く。バス停は選手村の出入り口の外側にある。
選手村内でもバスが運行しているのだが、ちょうどいいのがつかまらなかったので、徒歩で移動中だ。
遙の少しまえを日本代表のユニフォームを着た体格の良い男性三人組が歩いている。競泳以外の競技の選手たちのようだ。
「そういやさ、競泳の松岡の記事、見たか?」
まえを進む三人組の話にはまったく興味がなくて聞き流していたのだが、ふいに凛の話題が出て、それが遙の耳に突き刺さってきた。
「見た見た、ネットの記事で見た」
「俺も見た。二歳年上の巨乳アイドルとお泊まり愛、だろ」
「そのアイドル、どんな子だっけって思って写真見てみたら、すげぇ可愛かった」
「あの顔で、あの胸! あんな子と熱い夜って、松岡、やるよなぁ」
「さすがエロカッコイイスイマー!」
「マジでイケメンだし、世界大会デビューしていきなり金メダル穫るし、進学校でトップクラスの成績だったっけか? そりゃあモテモテだろ。にしても、手ぇ、早くねー?」
気持ち悪い。
そう遙は感じた。吐いてしまいそうな気分だ。
昨夜、凛は自分と一緒に写真を撮られた相手について詳しく話さなかった。だから、遙のなかに相手のイメージはなかった。だが、それでも、気持ち悪くなった。
今、こうして相手についての情報が耳から入ってきて、相手の写真を見たわけではないので顔などはわからないものの、遙のなかに彼女のなんとなくのイメージが出来あがる。
そのイメージと悪い想像が結びつく。
また、お泊まり愛だの熱い夜だの、そういった言葉と凛が一緒にされていることに、違和感を覚える。
自分の知っている凛とは違うように感じる。
気持ちが悪い。
自然と遙の歩く足は遅くなった。
「まあ、時期的にちょっとアレかなって気もするけど、でも、この大会の合宿のまえのことらしいし、犯罪おかしたワケでもないし、どっちも独身なんだからさ、別にいいんじゃねーの?」
話す声が遠くなっていく。
大会会場では予選が行われる。男子バタフライ100メートルの予選も行われる。遙の頭に予選の光景がチラリと浮かんだ。
練習は予選が終わってからだ。
遙の足は止まっていた。

大会会場に遙は入った。
もう今日の種目の予選のほとんどが終わっているだろう時刻である。
「ハル!」
呼びかけられて、遙は少しだけ表情を揺らして立ち止まり、それから無表情を声の聞こえてきたほうへと向ける。
同じ日本代表のジャージを着た競泳選手が近づいてきていた。遙よりも年上の男性の選手だ。競泳の選手らしい身体つきをしている。
「おまえ、なんでこんなに来るのが遅くなったんだ?」
先輩選手は遙の近くで足を止め、困っているような表情をして問いかけてきた。
遙はその質問に答えず、眼を伏せた。
気が進まなくて、なかなか、選手村からこの大会会場へ向かうバスに乗らなかった。それが回答だ。けれども、気が進まない理由について触れたくなくて、言わずにいる。
「凛が……」
先輩選手が話しかけて、しかし、言葉を途切れさせた。
遙はハッとする。
言うのをためらうようなことが起きたのか。
凛に。
遙は眼をあげて、先輩選手を見る。
先輩選手は遙の視線を眼で受け止め、口を開く。
「さっき男子バタフライ100メートルの予選があった。凛の調子は良くなさそうだった。でも、アイツはターンが得意だから、それで、巻き返せることを俺たちは期待して応援してた。だが、凛はターンしたあと、さらにスピードが落ちた。それでも最後まで泳ぎ切ってゴールしたんだが、順位がつかなかった。なんでかなって思ってたら、凛は失格だったってわかった」
失格。
その言葉を聞いて、遙の頭のなかは真っ白になった。
まさか。
どうして。
遙は食い入るように先輩選手の顔を見る。
先輩選手はふたたび口を開いた。
「ターンの際のタッチが片手だったと判断されたんだ」
バタフライはターンやゴールのタッチを両手をそろえて同時にしなければ、泳法違反として失格になる。
それで失格になることは滅多にないわけではないが、ターンを得意とする凛がそういう失敗をしたのを遙は見たことが一度もない。
ありえない、と思った。
これは夢なのかと思うほど、現実感がない。
作品名:For the future ! 作家名:hujio