何度でも 前編
2
その日、私はニホンにいた。
(そう言えば、『彼』の生まれた所は、ニホンの山陰地方だと言う噂を聞いた事があったな)
私はそんな事を考えながらニホンの各大都市を回って、有力な会社との話し合いを行っていた。
丁度、地方の学園都市を訪れた時だった。
その日は面会の予定が思いのほか早くに終了し ――期待したほどの技術力が相手企業に無かったからだが―― 私は何をするでもなく、街中を散策していた。
一区画先の路地から、数名の男子学生が路地の奥へ向けて何事か叫んで出てくるのを見つけた。
皆、少しだけ制服に汚れが付いているが、特に怪我をしていると言うほどでもない。
彼らはそのまま私の方向へと歩いてきた。
そして、私とすれ違った時
『……アムロ………』
『アムロ………』
彼らの言葉の内容は全くと言って理解できないが、その中で聞き流す事が出来ない単語が聞こえた。
私はリーダー格と見なされる少年の肩を鷲掴むと、怒鳴る様な声で問いかけた。
「今! アムロと言ったか?! アムロと言っていたな!! 彼は何処だ! 何処に居る?!!」
私の表情は鬼気迫るものであったと思う。
少年らは凍結液にでも浸かったかのように動きを止め、私を凝視した。
「答えろ!!アムロは、何処だ!!」
掴んだ肩を前後に揺さぶると、掴まれた彼以外の少年が泣きそうに顔を歪め、震える指先を先ほどの路地へ向けて上げた。
私は放り出すように少年から手を離すと、路地へ向けて走り出した。
後方では乱れた複数の足音が遠ざかっていくが、そんな事に気を散らす必要はない。数瞬を経て路地の入口に立った私の目に飛び込んできたのは
地面に倒れ伏した、華奢な身体だった。
黒褐色の巻き毛に象牙色の肌
手足は悲しくなるほどにほっそりとしており、泥だらけになった制服の中で泳いでいる様だ。
顔に出血は見られないが、瞳は閉じられており、意識が無い事が察せられる。
「アムロ? アムロ!!」
私は駆け寄ると、その身体を抱き起した。
頬を軽く叩いて名を呼んでみるが、一向に反応がない。
私はコートを脱いでアムロの身体を包んでから抱き上げると、一目散に宿泊しているホテルへと駆けだした。