何度でも 前編
ホテルの専属医師にアムロを診察してもらうと、私刑と極度の栄養不良によって意識が戻らないのだろうとの事だった。
暴行は、体幹や四肢の服に隠れる表面から見えない位置に集中して行われており、新旧取り混ぜた出血斑としてその事を証明していた。
「彼は奨学生なのでしょう」
医師はアムロの腕を消毒しながらそう言った。
「奨学生? 何故それが判るのです?」
「彼の制服の襟についている、このバッチですよ。ふむ。彼は二年生か…。この制服はこの学園都市でも有名な進学校のものでして、この学校では成績優秀な生徒を募る為にも、学費を払うのが難しい生徒に奨学金を出しているのです。その事を明確にする為に、このバッチを付けさせているのです。すなわち、このバッチを付けている者は、抜きんでて成績優秀な生徒であると同時に、奨学金を授けるに足る生徒であると、他者に知らしめているわけです」
「……と言う事は、虐めの標的ともなりうると言う事ではないか」
「そうなる危険性は大いにあるでしょう。それでも、学校側としては優秀な者を逃したくはない。広く募る為にも、この制度を取りやめにするつもりは無いようです」
医師は会話をしながらも職務を全うしており、すんなりと血管確保を行うと、栄養補給の為の点滴を開始した。
「さて、この汚れた制服はランドリーに出せば明日には綺麗になって戻ってきます。点滴も二本ほど行えばいくらかマシになるでしょう。このまま医務室に寝かせて」
「いや、私の部屋に彼を運んで頂きたい」
「ジーク様のお部屋に…ですか?」
「ああ。ベッドなら余っている位だから問題はない。
Drも一人の患者に一晩中係わっているわけにもいかぬでしょう。その点、私なら一晩寝ない位どうと言う事も無い」
「とは言え…」
「助けた手前、私が責任を持って彼の面倒を見ようと思う。今の点滴が終わったら、次に刺し替えれば宜しいのだろう? その位の事なら造作もない。心配には及びませんよ」
彼を手放したくない気持ちが急いて、ついつい威圧的な言葉になりがちな自分を諌め、私は医師の同意を取り付けると、ホテルの職員の手を借りながらアムロを自室へと運んだ。
案の定、アムロは夜になると熱を出した。
「広範囲にわたる暴行を受けていると炎症反応が全身に及ぶのだから、熱発するだろうと思っていたが…。随分高いな」
顔は真っ赤になっているのに唇は紫色
縮こまった身体は始終震えており、歯がカチカチと音を立てている。
額と項に冷却シートを貼ってから手足を触れてみると、冷たい汗を纏って冷え切っている。
「このままでは体力消耗が激しくなってしまうからな。私の身体で温めて上げよう」
私が彼の背後からベッドに入り込み、胸の中に華奢な身体を抱きこむ様にして横になると、硬くなっていた身体の力がゆるゆると抜けていくのが判る。
わが身に預けられる存在に充足感を感じながら、私もつかの間の眠りに降りて行った。