何度でも 前編
「ええ。お聞き及びとは思いますが、私は優秀な頭脳の持ち主に若い年代から研鑽を積める環境を提供して、現在のような規模に会社を成長させてきました。アムロ君は、その対象になりうると判断します。この学校にこのまま在籍させていては、貴重な人材をあたら潰すようなものです。それは、私には許せない。持ちうるコネクション全てを使ってでも、アムロを私の身近に置かせて頂く」
「あの子の名前は『七夜』と言います。当乳児院の78番目の子でしたので、そのように名づけました」
「え? アムロと言うのでは?」
「安室は私の『苗字』…ファミリーネームです。ジーク様の呼び方で言えば、七夜・安室となります。一歳に満たないうちに、当乳児院前に置き去りにされていました。ですから、両親の愛情を知らぬ、可哀相な子なのです」
「ならば、これからは私が愛情を注ぎましょう。弟としてもいい。出来るなら養子縁組をしたい位だが、独り身ではそれも難しいであろうし、アムロ…七夜君も抵抗感があるでしょうから…」
「確かにいきなりは難しいでしょう。とりあえず、教育委員会と福祉事務所へ至急の連絡を入れさせて頂きます。安室君の未来が素晴らしいものになる事に手を貸せられるとは、医者としても嬉しいですよ」
「ああ。校長は事の次第がご理解いただけていないようだ。ご説明はそちらにお任せする。もっとも、反論など出ようもないだろうが?」
忙しない視線を私達三名の顔の間で行き来させていた校長は、何がどうなっているのか解っていない表情をしていた。
その間抜け面を見ているが腹立たしく、私は扉を開けて三名の退出を促した。
「点滴が終了しましたら…」
「ええ。解ってます。針を抜いたらしばらくしっかりと押さえておきますよ。医療廃棄物は別処理をしてもらえるように、明確にしておきます。ああ、そうだ。彼が目覚めたら、ポタージュやミルク粥をルームサービスで取って食べさせましょう」
「そうして頂けると助かります。では、ジーク様。宜しくお願いいたします」
「七夜の事。くれぐれも宜しくお願いいたします」
Drと院長が丁寧に頭を下げて退出していくのに対して、校長は挙動不審のまま引きずられるようにして出て行った。