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二階堂千鶴とゆかいなコロッケたち

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 思い出したように泣き叫んで死を拒む。だからといって空中に投げ出されいる人を助けるのは不可能だ。高度な飛行技術を持ったヘリか、翼を持った動物がいれば話は別だが、このまま重力に引かれて行くしか無い。
 美味しそうな人参でしょうこれが英国貴族のスポーツポロ高級カツオ節をたっぷりとかけたネコマンマを死してなお漂うこのセレブな霊気今までの練習の成果どどーんとお披露目晴れ舞台に天も祝福して下さってプロデューサーもタオルをどうぞってどうして笑いがおきますのこれは別にミスキャンパスになりたくて必死この歌は誰よりも私を応援してくれるみんなへコロッケのお返しがどうとかわたくしにはぜーんぜんこ、こんな商店街でライブとは、プロデューサーも変なこと高価な楽器ですもの絶対に落としま貴方にだけちょっと特別なチョコド派手で甘〜いゴーーーーージャスなチョコをプレゼントさあ今ならお安くしておきますシュプールだって持っていますわよ!お菓子がこんなにたくさんっ!お〜っほっほ!さすが会場のお客さんがこちらへ集まりすぎないか心配貴方…夢の一夜を共に早く行きますわよ!ほらダダもれですわ!ダダもれ!し、幸せにしてくださいね…真珠よりも美しい人魚がこの世界の海に生まれていかがかしら?まぶしすぎて見えないかしらちゃんとやりますけど…きゃぁ!こ、こっちにこないでわたくしから離れることは許しません買おうと思えば、いくらでも買えますけど、今日はあえて貴方も、未来のトップアイドルに相応しいプロデューサーになるべくわたくしは二階堂千鶴!トップアイドルは、美しく高貴なわたくしに課せられた使命ですわ!

「走馬灯やめて! まだ、まだわたくしは……セレブを極めていない……トップアイドルになれてない! 絶対に、このままじゃ終・わ・り・ま・せんわぁ〜〜〜〜!!!!」
 空をかくが落下は止まるはずはない。でも千鶴は諦めない。
「くそーーーですわ! セレブパワ開放してーーーーー今よぉおお〜〜〜〜!!」
 そのときだった。
 ギュッとつぶっていた目を恐る恐るあける。真っ先に見えたのは、はためく白く丸っこい翼。煽られていた強風が感じられないし、風景も止まっている。落下していない。
「お、お〜〜っほっほっほっほごほっセレブにかかれげほっ、空だって飛べると証明ケホケホッされましたゴハッ!」
 と、千鶴は視界の端に何か見つけて頭をあげた。
 サーフィンをするように両手でバランスを取っているコロッケが空中に立っていた。襟足が跳ねている髪型にアホ毛が一本とびでている。
 後頭部をぶつけて、何かに仰向けに寝そべっているのに気がつく。みると、それは紛れもなく硬いコロッケだった。羽をつけたコロッケが空を飛んでいた。
「いけ、ギャオーン!」
 17才くらいの男の子声だ。その呼びかけにコロッケが翼を揺らして旋回すると、スピードが乗ってその場から遠ざかっていく。
 ハッとして千鶴は男の子のアホ毛に組み付いた。
「あの子がまだのこってるでしょう!! 早く戻りなさい!」
「ちょやめッ、あ、うわぁ、まってまってまって!!」
 まっすぐ進んでいたのにたちまちグラグラと揺れ始めた。
「これ以上遠ざかるなら、お上品リバーブローをお見舞いします……って」
 近づいてみてわかる。王国のクロケット人と違う。男の子の衣の表面には黒い部分があった。
「あなた、ソースの――」
 答えを聞く前に森の中へと墜落していった。

 森の木に見えたのはブロッコリーだった。
 ブロッコリーの弾力で事なきを得た千鶴と男の子は、緑に隠れながらカリフラワー森の外れを目指す。
 マンホールを開けてロープで出来たはしごを降りると、地下帝国が広がっていた。
 ドーム型の空間に町できていた。奥の奥の方にそびえ立つ巨大な塔は、つるつるのプラスチックのような表面で黒く、頂上の方に白いキャップのようなものが付いていた。そこがソースクロケットの本部。
 エスカレーターでフロアをジグザグに登って最上階に着く。
 見晴らしの良い展望室のような部屋には、白い髪とひげのクロケット人が曲がった腰で杖をついていた。
「あなたがメスムンバンカ様ですか。よくぞおいでくださった」
「よく『くださった』なんて言えますわね。脅して連れてきたくせに」
「なんと!? ……まさかウヨリ!」
 ようやく背中に突きつけられていた硬い感触が消える。その手にもっていたのはハンドマイクだった。おそらく通信用に使っていたのを利用していたのだろう。
「こうでもしないと、ついてきてくれないじゃないか」
「まったくお前はいつもいつも! これ待てウヨリ!」
 ウヨリと呼ばれた男の子は耳をかさずに部屋からでていった。
「ご無礼申し訳なかった。丁重にお出迎えしろと申し上げたのですが、あいつときたら」
「その台詞じゃどのみち脅されていたような」
 ごほんと咳をして、老人は話を仕切りなおした。
「メスムンバンカ様は、わしらが何者なのかお分かりになられておりますでしょうか」
「ソースコロッケでしょ。あなた方のことは聴いてはいましたが、まさかゴンドラを攻撃するなんて、随分と威勢のいい連中なのですね」
「やはり、誤解しておりますな」
「誤解も二階も堂もありませんわ! 一体何の恨みがあってこんなことを! あれじゃあの子は……もしかして私が『メスムンバンカ』だから、強引に誘拐して」
「違います、違います」首をふるとソースが跳ねる。「あれはわしらがやったのではありません。元々ゴンドラについていた遠隔型コロッケを爆発させたのです。王国側のクロケットの手によって」
「そんなこと言われて信じるセレブがどこに」
「悪魔のいうことは信じられませんか」
 心の黒く汚い部分を見透かされたようで、千鶴は言葉につまる。
「国王は伝説のコロッケでソースを取り上げようとしているのでしょう。しかし、それは違います。食べた人間がどのようなコロッケが好きなのかを暴きだし、そして、それがわれわれクロケットの総意としてしまう。なんとも恐ろしい……個性がなくなってしまうのです。貴方に伝説のコロッケを食べさせるわけにはいきまぬ」
 目頭らしきところを抑えるとサクッと衣がなる。老人でもさくさくに揚がっていた。
「コロッケを食べさせられたでしょう」
 千鶴は思わず唾を飲んだ。あのジューシーでさくさくの温かいコロッケの味を思い出していた。
「今伝説のコロッケを食せば間違い無く、クロケット人すべてがソースを忘れてしまう。メスムンバンカ様、わざわざお越しいただいてわるいのじゃが、今すぐに、貴方の世界へと帰っていただきます」
「帰れるんですか?!」
 思ってもみない言葉に、千鶴は嬉しそうに声を荒げた。
「はい。少々お時間をいただけますか。そして仕事へ向かってくだされ。どうぞ、露店でシャネルの激安ブレスレットを衝動買いしてしまった分まで稼いでくだされ」
「あなた方の言い伝えはどうしてそう近々のことなのですか! と、といっても? まあ、シャネルですからねぇ! 自らを美しく輝かせるためには、金に糸目はつけませんわ!」
「お部屋へお通ししろ」
「スルー!」
 最上階からエスカレーターで下り、地下1階の豪奢な部屋に通された。