アジャニの炎
アジャニは、何も答えなかった。
「君はジャンドで何も学ばなかったわけではあるまい?」
サルカンは、続ける。
「次に会うとき、俺たちは、組むことになるか? それとも、戦うことになるか?」
「サルカン……」
アジャニは、傷ついた身体を起こそうと、四肢に力を入れる。
全身に痛みが走るが、彼はよろよろと立ち上がった。
全身に、言いようのない悲しみが襲い掛かってきたのは、その直後だった。
アジャニは思い起こしたのだ。
最後の戦いを。強大な敵との死闘を。
大切な友の死を。
「サルカン、オレは――……」
サルカンの全身を、炎が覆い隠した。
この男のみではない。彼を中心として、アジャニの目の前の全ての光景が、炎に包まれた。
アジャニはその熱気に、両腕で顔を庇う。
両腕の隙間から、アジャニは見た。
開かれた炎の中で、アジャニを見下ろし続ける、サルカンの姿を。
その背後から沸き起こっていく、強大なドラゴンの陰影を。
「怒りに身を任せろ、キャットマン。そして、怒りを支配しろ」
サルカンの両目が、朱色の光を放つ。
強大な炎の魔力、赤のマナに列する魔力が、その身体からあふれ出していく。
ドラゴンの陰影は、その大きさを増していく。二つの角を持つ、霊気に満ちた龍の面影が、堂々たる姿で立ち上がっていく。
サルカンの背中から、二つの翼が飛び出した。
獲物と死闘に餓えた、歴戦のドラゴンの、荒々しき翼が。
そして、その背後のドラゴンの陰影が、青白い光を放った。
アジャニは目を見開く。アジャニの身体が、光に飲み込まれていく。
反射的に、目を閉じた。
全てが熱気と光に呑まれていった。
――黄金のたてがみのアジャニ、また会う日まで。