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炬善(ごぜん)
炬善(ごぜん)
novelistID. 41661
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アジャニの炎

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 アジャニは、何も答えなかった。
「君はジャンドで何も学ばなかったわけではあるまい?」
 サルカンは、続ける。
「次に会うとき、俺たちは、組むことになるか? それとも、戦うことになるか?」

「サルカン……」
 アジャニは、傷ついた身体を起こそうと、四肢に力を入れる。
 全身に痛みが走るが、彼はよろよろと立ち上がった。
 
 全身に、言いようのない悲しみが襲い掛かってきたのは、その直後だった。
 アジャニは思い起こしたのだ。
 最後の戦いを。強大な敵との死闘を。
 大切な友の死を。
「サルカン、オレは――……」

 サルカンの全身を、炎が覆い隠した。
 この男のみではない。彼を中心として、アジャニの目の前の全ての光景が、炎に包まれた。
 アジャニはその熱気に、両腕で顔を庇う。
 両腕の隙間から、アジャニは見た。

 開かれた炎の中で、アジャニを見下ろし続ける、サルカンの姿を。
 その背後から沸き起こっていく、強大なドラゴンの陰影を。

「怒りに身を任せろ、キャットマン。そして、怒りを支配しろ」

 サルカンの両目が、朱色の光を放つ。
 強大な炎の魔力、赤のマナに列する魔力が、その身体からあふれ出していく。 
 ドラゴンの陰影は、その大きさを増していく。二つの角を持つ、霊気に満ちた龍の面影が、堂々たる姿で立ち上がっていく。

 サルカンの背中から、二つの翼が飛び出した。
 獲物と死闘に餓えた、歴戦のドラゴンの、荒々しき翼が。
 そして、その背後のドラゴンの陰影が、青白い光を放った。

 アジャニは目を見開く。アジャニの身体が、光に飲み込まれていく。
 反射的に、目を閉じた。

 全てが熱気と光に呑まれていった。










 ――黄金のたてがみのアジャニ、また会う日まで。


作品名:アジャニの炎 作家名:炬善(ごぜん)