敵中横断二九六千光年2 ゴルディオンの結び目
バカらしい。伝達ミスでないのなら、そいつはホラを吹いとるのだ。そう思った。大方、サーシャが追撃機と相討ちになり、そこにそのお調子者が居合わせたというところだろう。がんもどきが錆びた鉄斧を黄金に変えるミダスなどであるものか――と、藤堂は考えながら、沖田がそのパイロットの資料を自分に寄越せと言っているのを聞いた。コンピュータの端末機にその者の顔が表れたとき、雷にでも打たれたようになっていた。
まさか……と思いながら藤堂は今、あのときに沖田が見ていたデータを画面に出して眺めた。『古代進に関する資料』。その履歴は、地球人類の最後の希望を沖田の下に届けたのがあの〈ゆきかぜ〉の古代守の弟であることを示している。
まさか……とまた思った。古代進。こいつがお前の孫悟空? 〈ゴルディオンの結び目〉 を解く者? しかし、こいつは、『がんもどき』と呼ばれる男ではないか。
藤堂がこの一件を思いだし、そう言えばあいつはどうなったのだと考えたのはやっとこの数日前のことだった。〈ヤマト〉発進。波動砲。火星軍部とのイザコザや内乱への対処に追われ、がんもどきパイロットのことなどすっかり忘れていたのである。そもそも、あのとき、沖田は何も言わなかった。その男の名前が古代で、〈ゆきかぜ〉艦長の弟だと言うことさえ、後で調べて初めて知った。
古代守の弟だと? 〈ヤマト〉発進に際して船から出してないなら、つまり、沖田はそいつを連れてくことにしたのだろうが、しかしそんな……。
精鋭中の精鋭揃いの〈ヤマト〉艦内で、ペーパー二尉など二尉ではない。最も下の階級からも穀潰しめとイビられて、あんたに食わすメシはねえよと言われるだけの存在のはずだ。ましてこいつはボロ輸送機で敵を墜としたなどとほざく大ボラ吹き。
そうだ、バカなと藤堂は思った。こんな男が〈アルファー・ワン〉? そればかりは有り得まい。とは思う。とは思うが……。
作品名:敵中横断二九六千光年2 ゴルディオンの結び目 作家名:島田信之