敵中横断二九六千光年2 ゴルディオンの結び目
「よくない。あの〈人〉は死んだんだぞ。コスモナイトも、タイタンで採った人間は死んじまって、ただ〈ゼロ〉を飛ばしてただけのおれが生きていて……なのに結果を出したのがおれならおれが偉いなんてことになるわけないだろう!」
「ああ、そうだな。みんなそう思ってる。お前なんかどう見ても偉い感じしないしな。でも、それがなんなんだよ。別に偉い人間になりたいわけじゃないんだろ?」
「それは……」
「お前が結果を出せたのは他の何百人ものおかげだ。それがわかってりゃいいのさ。いま吸ってる空気だって、黄色や青のクルー達が吸えるようにしてくれているんだ。それがわかっていればいいのさ。ひょっとしたら、この船の部品の中にお前の〈がんもどき〉が運んだものがあるかもしれない。けれどもそれも、やっぱり他の何千人ものおかげなんだ。〈ヤマト〉は何百万ていう人のおかげで飛んでいる。それがわからず、なんでもみんな自分の手柄でなけりゃ気が済まないやつがいたらそれこそ人でなしだよ。でも、お前は違うんだ。それでいいじゃないか」
「いや……けど、そんな……」
「古代、おれはな、明日お前と共に戦えてうれしいよ」島は言った。「昔の仲間はみんな死んじまった。『後を頼む』とおれに言い残してな。みんな、家族の写真を見せて、『オレが死んでもお前は生きてオレの家族を救ってくれ』とおれに言う。勝手なもんだ。古代お前、そんなこと人に言われたことあるか?」
「いや……」
「だろうな。ほんと、お前とは正反対だと思っていたよ。けどこの船のクルーはみんな、お前以外、誰でも何度かそう言われているはずさ。きっと自分も別の誰かに言ってるだろう。『オレが死んだら後は頼む』って」
古代はもう何も言えなかった。ただ黙って友の顔を見ていた。島は言った。
「けど、お前は違うだろうな。お前だけは人に言わない。人に頼む〈後〉なんか何も持ってないんだろ?」
「ああ……言われりゃそうかもしれんが……」
「もうそれだけ重い荷物を背負い込んでいるのにな。けど、きっと、お前ならやるよ。お前は自分が背負ったものは、絶対、途中で捨てたりとか、誰かに『後を頼む』だなんて預けたりはしないやつだ。必ず最後まで自分で運ぶ。だから明日の任務だって、お前ならばやり遂げるよ」
「おい」と言った。「ちょっと待て。何を……」
「きっと沖田艦長は、おれが昔にお前に見たのと同じものをお前に見たんだ。お前をひとめ見ただけでな。きっと自分と同じ種類だと感じたんだろう。だから地球を救うのは、お前で何も間違いないのさ」
「待て。何を言ってんだ、島……」
言ったときだった。島は何か取り出して、「ほら」と古代に差し出してきた。
「お前のだろ。預かってたんだ」
「え?」
と言った。友の手の中にあるものを見る。
厚紙の束だ。見覚えがあった。それは古代が自分で作った百人一首の取り札だった。
作品名:敵中横断二九六千光年2 ゴルディオンの結び目 作家名:島田信之