敵中横断二九六千光年2 ゴルディオンの結び目
船がその中でワープしようとするのは、斜面に斜めの穴を開け潜り込もうとするようなものだ。それではまともにワープできずに間違ったところに行ってしまうか、悪くすれば星を破壊してしまったり、船が超空間に閉じ込められて永遠に出られなくなくことになるかもしれないと言う。
まあとにかく、星の近くでワープはできない。そう言われているものは、やってはいけないことなのだった。
太田は立体画面を見ていた。ワープすることのできないエリアが、各天体のそれぞれを線で囲んで示されている。
タイタンで状況を困難にしたのは、ひとつにこの問題があった。まず土星が極めて大きなワープ不能域を作っていて、タイタンがそれに重なる空間にまた別の重力の罠を張っていたのだ。タイタンが地球の月の1.5倍の直径を持つかなり大きな星だったのが、あの戦闘で〈ヤマト〉の離脱を難しくした。
これに対し、冥王星。直径はタイタンの半分以下。質量は十分の一しかない。ゆえに、もし攻めるとなれば、この前とは違うのは――。
「星に近づくことでワープできなくなる心配はあまりしなくていい、と言うのがまずひとつですね。衛星カロンもさらに小さな星なわけだし」
と太田は言った。〈スタンレー〉攻略戦。航海部員として戦いには反対の立場を取りながらも、まったく頭になかったわけではないらしい。
「やるとしたら一撃離脱なわけでしょう。基地を見つけて打撃を与えサッサと逃げる。航空隊を収容するまで敵の攻撃を躱せりゃいいんだ。船が百隻いるからと言って、全部相手にすることはない。ぼく達はただ遊星を止めさえすれば……」
「まあな」
と島は言った。太田の言葉を考えてみる。タイタンと違い、今度は補助エンジンを温存する必要はない。エンジンが焼き付く限界まで〈ヤマト〉を振り回してやれるのだ。太田が敵の攻撃をくぐり抜ける道を見つけ、自分が船を操縦する。ラリーのカーレースのように。
サーチエンドデストロイ・アンド・ヒットエンドランと新見は言った。敵の殲滅はしなくていいのだ。基地を見つけて一撃を与えるのにさえ成功すれば、後は地球の防衛軍が反攻に転じることができる。地球の地下の人々は希望を持って〈ヤマト〉の帰りを待てるだろう。まさしく後顧の憂いが絶てるというもの――。
「しかしだな。何度も言うが、そううまくいくと思うか?」島は言った。「おれにはとても、これは勝てるとは思えないね」
作品名:敵中横断二九六千光年2 ゴルディオンの結び目 作家名:島田信之