敵中横断二九六千光年2 ゴルディオンの結び目
あれは執念の特攻だった。それ以外に方法がなかった。そういうことなのだろう。本当の〈アルファー・ワン〉はそうまでしておれを護った。いや、おれでなく、護ったのはあくまであのカプセルだが……。
今はおれが〈アルファー・ワン〉だ。冗談じゃない。どうしてこんな。
「本当はあれはわたしがやるべきでした」山本は言った。「もう二度と、隊長機を失うことはさせません。あなたはわたしが護ります」
五分ですよ、と言い置いて出ていく。後ろ姿を見送って、古代は泣きたい気分だった。
飲みそこねた酒を思う。飲みたい、と痛切に思った。山本が最後に言った言葉は、本当は坂井じゃなくてこのおれがあのとき死ぬべきだったんだ、という意味としか思えない。
今はおれが〈アルファー・ワン〉。イヤだ。絶対にイヤだと思った。せめて酒でも飲ませてほしい。
――と、そこへ看護士が何やら薬とコップを持ってやってきた。「どうも」と言って受け取った。薬の方は栄養剤か何かだろうが、問題はコップだ。古代は中身が酒であるのを期待した。あの先生がこっそり差し入れてくれたものだと。
むろんそんなわけがなかった。ただの水で薬を飲んだ。
作品名:敵中横断二九六千光年2 ゴルディオンの結び目 作家名:島田信之