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敵中横断二九六千光年2 ゴルディオンの結び目

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ココダ山道



今のまま、〈スタンレー〉に行けば敗ける。だが、どうすれば――。

考えながら、加藤は〈タイガー〉を〈操って〉いた。〈飛んで〉いるのはトリトンの空。先ほど古代進〈隊長〉にやらせたのと同じ仮想のシミュレーションだ。訓練メニューは、白夜の圏の中にある敵の基地を探すこと。

発見したら、核ミサイルをブチかます。ただそれだけできればいい。敵に一撃与えるだけで、地球の地下の人々は決して〈ヤマト〉などいるものかとか、逃げたに決まっているなどと言わなくなるだろう。テロや内戦も抑えられ、ガミラス教の信者も減らせる。後は防衛艦隊が、〈ヤマト〉が帰るその日まで地球を護ってくれるはず。

だからとにかく行かねばならないと、さっき南部と新見は言った。地球人類を救うには、イスカンダルからコスモクリーナーを持ち帰るだけでは足りない。太陽系を出る前に、どうしても〈スタンレー〉を叩かねばならない。それも〈ヤマト〉で――〈ヤマト〉一隻の力によって。

他の船ではダメなのだ。必ず〈ヤマト〉がやるのでなければ、滅亡は防げない。人は自滅するだろう。自(みずか)らの愚かさによって滅ぶのだ。

人類は今、そこまでの瀬戸際に立っている――仮想の空に機を飛ばしつつ、加藤は思いをめぐらせた。救えるのはおれ達だけか。我ら〈ヤマト〉の航空隊――冥王星の白夜を飛んで基地を探し攻撃するのは、おれ達戦闘機乗りの役目となったのだから。

シミュレーターの設定も、今はこの〈タイガー〉は腹に一基の核ミサイルを抱いてることになっている。二機の〈ゼロ〉と32機の〈タイガー〉のうち、どれか一機でも基地を見つけて核攻撃に成功すれば、ミッションは達成だ。基地の最も重要な施設はおそらく地下深くにあって、核でも破壊はできないものと推測されているのだが……。

だが、それで構わない。この作戦で重要なのは、〈ヤマト〉がちゃんと宇宙にあって、決して逃げずに戻る船であることを地下の人々に示すことなのだから。基地に一撃を与えたら、隊を集めて〈ヤマト〉に戻り外宇宙へ出る。〈タイガー〉はもともと船を護るための戦闘機だ。パイロットらが生きて帰還し〈ヤマト〉が戦場を離脱して、初めて作戦成功と言える。

地下の人々は思うかもしれない。波動砲があるのならどうしてそれを使わないのかと――だがそれは問題ではない。政府はなんとでも言うだろう。冥王星には生物がいるらしいので壊すわけにいかない、とでも。最後に勝つのが地球ならばそれでいい。それが戦争というものだ。

しかし、今のままではとても――これは敗けると加藤は思った。勝ち目がない。まず〈ヤマト〉が百の敵と戦えるかが問題だ。とても敵わぬと見たならば、すべての〈タイガー〉と〈ゼロ〉を見捨てて船だけワープで逃げなければならないことにもなるだろう。基地攻略にたとえ成功したとしてもおれ達はみな置き去りと言うことになるが……。

それはどうするつもりなのだ? 機略の沖田艦長のことだから、何か秘策でもあると言うのか。新見に聞いた話からはそのようにも思えるが……〈スタンレー〉に航空隊が行くときに、迎え撃つ敵戦闘機は百がせいぜい。三倍の数に勝てればいいと艦長は言ったという。〈ゼロ〉と〈タイガー〉の性能ならば、それほど無茶な要求では……。

ないかもしれない。まあ、それは置くとしてだ――シミュレーターの〈キャノピー窓〉に映る像を眺めやる。液体窒素の噴煙が上がり、個体窒素の雪が舞う地獄の空――本当の敵はむしろこれだ。

太陽系外縁部。宇宙時代の今にあっても未だほとんど有人探査もされていない魔の領域。やつらはここに蜘蛛のように巣を張った。なのにそこにおれは飛び込んでいかねばならない。

勝てる、という気がしない。これは〈ココダの山道〉じゃないのかと加藤は思わずいられなかった。スタンレーの山脈にある敵の基地へと続く道。しかしまともな地図もなく行けば罠が待ち受ける――それが〈ココダ〉だ。かつて日本が世界を相手にした戦争で最初に玉砕した地の名前を、迂回を主張するクルーは冥王星の符牒(ふちょう)にした。スタンレーは南への壁。ココダの道を行くのは無謀――それは確かにその通りだと頷かないわけにはいかない。

地平に大きく青い海王星が昇る。この訓練で〈飛んで〉いるのはトリトンの空だ。どうせヴァーチャルなのだから冥王星を〈飛ぶ〉べきなのに、データがないからシミュレートできない。だから代わりにトリトンの空……。

これは〈ココダ〉と言うしかあるまい。〈ヤマト〉が戦う船ならば、これでもまあいいだろう。たとえ敗けるとわかっていてもやらねばならない作戦もあろう。〈メ号作戦〉がそうだった。かつての〈リ号〉――ポートモレスビー攻略も、あるいはそうだったのかもしれない。しかしそれと同じことを、イスカンダルへ行く船であるこの〈ヤマト〉でやると言うのは……。

やはりおかしいと言わねばなるまい。〈タイガー〉は船を護る戦闘機であり、そもそもこちらから敵を攻めるような任務には向いてないのだ。

加藤はレーダーマップを見た。トリトンの地表。今はこれを、冥王星と思って飛べと言われている。

直径千キロの白夜の圏――その面積は、北海道のおよそ八倍の広さになる。それを32の〈タイガー〉が四機ずつ、八つに分かれて基地を探すわけだから、つまり一隊が北海道まるごと一個の範囲を受け持つということだ。少しでも高く飛んだらたちまち対空ビームを喰らうだろうから、嘗めるように低空を――。

そしてもちろん、戦闘機が迎え撃ってくるのもまた疑いない。仮に基地を見つけ攻撃に成功しても、果たして何機生き残れるか。

捜索範囲をせめて半分にできたなら――そう思わずにいられなかった。いま要求されているのは〈タイガー〉の能力で成し遂げられることとはとても思えない。

これでは勝てる気がしない。今のまま、敵の中に飛び込んでいけば隊は全滅で終わるだろう。

だが、本当の理由は別だと思った。古代進、あのわけのわからん男だ。それでなくても行けると思えぬ敵地なのに、なんであんなのが隊長なのか。

あれが指揮官じゃ勝てるものも勝てない。逆に、あいつが頼りになるなら、勝ち目も見えてきそうな気もするのだが――。

そこがよくわからなかった。この〈ヤマト〉の戦闘機隊を率いる者は、鬼神でなければならないだろう。それはたんに腕がいいとか、士官として優秀ということではない。闘いに強いというのは別の何かだ。いかなる不利な状況であってもこいつについていけば勝てる、オレ達は決して敗けないのだと、隊の誰もにそう思わせるエースの中のエースでなければ、この〈ヤマト〉の航空隊は任せられない。

〈ヤマト〉の旅には人類の存続が懸かっている。船を護る戦闘機なしでは、クルーはとても航海を続けられると思えぬだろう。戦闘機隊の隊長は、言わば船の護り神だ。こいつがいれば大丈夫だ、オレ達は地球を救えるのだとタイガー隊員が思うなら、クルーの誰もがそう思う。