敵中横断二九六千光年2 ゴルディオンの結び目
〈ヤマト〉において航空隊の隊長は〈ゼロ〉に搭乗することになる。ゆえに〈ゼロ〉に乗る者は、闘いに強くなければならない。いかなる敵に相見舞えてもねじ伏せて、勝利をもぎ取り船を護り抜く者だ。それでこそエースと言うものだ。しかし古代はどうだろう。はっきり違うと言えるのならば事は簡単でもあるが、そこがどうもわからないのだ。あれじゃダメだという思いがある一方で、何か底知れぬものを持っているように感じるところが――。
つまるところは勝てばいいのだ。〈ヤマト〉が勝って地球に戻れるのであれば、おれの命など惜しいとも思わん。あのときも言った。タイタンで、〈ヤマト〉にはコスモナイトが要るのだろうと。ならば命などくれてやる。〈ゼロ〉を救けに行かせろと。
しかし古代という男は、『荷を捨てろ』の命令をハネのけ結果的にすべてを救った。あれがなければ、ひょっとするともう〈ヤマト〉は――。
どうなっていたろうか。おれは真田副長の制止を振って〈タイガー〉で出ていき、部下が何機もそれに続く。結局〈ゼロ〉を救けられずに置き去りになる運命となり、〈ヤマト〉は波動砲の修理もできず〈スタンレー〉を迂回してマゼランに向かうことになるか、地球に戻って今度は逃亡船として旅立つことになっているか。
どちらにしても人類は終わりだ。古代がそれを防いだのなら、やつはとにかく一度は地球人類を救ったと言うことになる。
いや、一度だけじゃない。最初は〈サーシャのカプセル〉を〈ヤマト〉に届けることによって――。
あのとき確かに、フラップなんて古い手で敵の無人戦闘機を墜落させるところを見た。だからこれで四機だと言った。前に三機墜としてるから、あと一機でエースだと。
そんな話はてんで信じちゃいなかったが、しかし見せられたあのデータ。やはりそのとき、古代は人類を救っている。あいつがそこにいなければ、もう滅亡は決しているのだ。
古代は〈ゼロ〉でクルビットをやってのけた。とにかく、やってのけるだけは――もし完全に成功していれば、ひょっとすると〈ゼロ〉で〈タイガー〉三機を相手に、渡り合って勝つことすら――。
まさか。あれはアマチュアだ。真の歴戦のプロには勝てない。はずだ。そう思う。〈スタンレー〉にはプロの迎撃戦闘機隊が待ち構えているだろう。今の古代を隊長にして乗り込んでいって勝てるとは――。
とても思えない。だがそれでも、あの男には何かがある気がしてならない。闘いで隊を勝利に導くものが。航海で船を護り通すものが。〈ゼロ〉に乗る者に必要なのが結局それであると言うなら――。
しかし、どうする。艦長の眼が正しいとしても、やはり今のままの古代に隊を任せてついていける気がしないが……。
答の見つからぬまま、訓練を終えてシミュレーターを出た。周囲が何やらザワついているのを感じる。
そばにいた者に聞いてみた。「何かあったのか?」
「軍が地下の市民に発表したんですよ。『〈ヤマト〉は波動砲で冥王星を撃ってから、イスカンダルに向かう』って」
「なんだと?」
シミュレーター室を出る。艦内は動揺したようすのクルーにあふれていた。
加藤を見て道を開ける。皆、黒いパイロット服は戦闘機乗りと知っている。イザと言うとき外に飛び出し敵と戦って真っ先に死ぬ。しかし全機墜ちたとき船はやっぱり終わりになると誰もが知る存在だ。この状況の急変に戦闘機隊はどうするのかと、誰もがみな考えたようだった。
戦闘機隊はどうするか? そんなものはこっちが知りたい。地球防衛軍が〈ヤマト〉は冥王星を撃つと市民に発表した?
「それは暗に艦長に波動砲を使えと言ってきたってことか?」
タイガー隊の部屋でもやはり、パイロット達がテレビを見ていた。画面はさっきから繰り返し、そのニュースを伝えているらしい。加藤の問いに隊員のひとりが、
「でしょうね。砲は使えないはずですけど……」
「戦術科はなんて言ってるんだ」
「まだ何も」
「じゃあ……」と言った。「隊長は?」
「は? 隊長って?」
一同が加藤を見た。タイガー隊の隊長と言えばそれはあなたではないか、という顔で。
加藤は言った。「だから、いるだろう。もうひとり」
作品名:敵中横断二九六千光年2 ゴルディオンの結び目 作家名:島田信之