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敵中横断二九六千光年2 ゴルディオンの結び目

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言って、沖田はスクリーンを見た。冥王星から逃げ出していくガミラスの群れ。ついに動いた。このためだ。やつらにこうさせるため、波動砲を撃ったのだ。リスクの大きな賭けだった。しかし勝ったと沖田は思った。もっともこれは、第一段階に過ぎないが。

太田が言う。「やつらは波動砲が怖くて、いま星から逃げてるのか……」

「撃てないのにな」南部が言う。「本当は撃てない。なのにやつらはそれを知らない。〈ヤマト〉が来ればみんな一発で吹っ飛ばされる。そう思ったら逃げるしかない……」

今や艦橋クルーの誰もが、わしの狙いを理解したらしいなと沖田は思った。そうだろう。気づいてみれば簡単な話だ。敵の身になって考える――それだけの話なのだから。

夜道で出くわした男から拳銃を突きつけられたら人は逃げるか手を上げる。『どうせオモチャじゃないのか』と思ったとしてもそうするものだ。〈ヤマト〉に波動砲があり冥王星を消し飛ばす威力があると知るならば、ガミラスに逃げる以外の何ができるか。

「〈ヤマト〉は明日にも冥王星に達するだろうところにいるのだ。当然、やつらは今日のうちになんとか逃げようと考える」

沖田は言った。口元がほころぶのを感じていた。『明日』どころか、今でもだ。今すぐ〈ヤマト〉はワープして、冥王星の前に行こうと思えば行ける。やつらはそれも知っている。と言うことは――。

「あはは、こりゃいい!」相原が言った。笑いながら、「やつら、いま交信で逃げろ逃げろと言い合ってるのか! 〈ヤマト〉がすぐにもやってくるかもしれないから――」

それが合図になった。全員が吹き出し、声を上げて笑い始めた。

「なんてことなの。戦わずに勝ち?」森が言った。「あはははは! こんなことって――」

「信じられん」真田も笑う。「艦長、あなたという人は――」

沖田はしばらく笑わせておいた。みんな涙目になっていた。当然だろう。誰も決して、おかしくて笑っているだけではない。この八年の苦闘の年月。それを想って泣きながらに笑っているのだ。絶望的な戦いだった。多くの味方が死んでいった。地球の海は涸れ果てて、人は地下に追いやられた。

こうして〈ヤマト〉に乗り込んで、人類を必ず救うと誓い合っても、不安で一杯だったろう。こんな船一隻でマゼランまで行けるのか。戻っても地球は持ちこたえているか。ガミラスという正体不明の巨大な敵に果たして勝てるものなのか。

〈ヤマト〉だけが最後の希望。この旅が失敗ならば人類は終わる――その重荷に誰もが押し潰されそうだった。なのにそれが、こんな形であっけなく勝って終わってしまったのだ。〈ヤマト〉は戦うことすらなしに、侵略者に勝ってしまった。ただ竹光(たけみつ)を一回振っただけのことでだ。

これでは一体、今までの犠牲はなんであったのかとすら思うだろう。だからみんな笑っている。すべてがタチのあまりに悪い冗談に思え、泣くに泣けずに笑っているのだ。

無論、一方、痛快な思いもあるはずだった。ガミラスどもは怯えて逃げる。〈ヤマト〉が怖い、怖いよおと震えちぢこまりながら。ぶざまなようすが目に浮かぶようでもあった。オモチャの大砲に怯えて逃げる敵の群れを眺めて悦に入る機会など、そうそうあるものではない。

「諸君、そろそろ笑いをやめて聞いてもらおう」沖田は言った。「波動砲は欠陥兵器で〈スタンレー〉の攻略には使えない。だが百の艦隊を追い散らす役には立ったのだ。わしはそれを最大限に利用した」

「はい」全員が頷いた。

「しかしまだ、完全な勝利をおさめたわけではない。兜の緒をここで締めなければならん。すべての敵があの星から逃げ出すはずもないのだからな」

「はい」とまた全員が言う。もう誰も笑ってはいない。

「敵は〈ヤマト〉と戦うために最小限の兵力は残す。いま星から遠ざけているのは、どうせ〈ヤマト〉を迎え討つのにさして役には立たない分の戦力だとみるべきだ。小型の軽巡、駆逐艦は、〈ヤマト〉の主砲が健在なうちは近寄ることもできはしない。なら、とりあえず避難させる――やつらが船を逃がしているのは、そういう考えもあるに違いない」

太田が言う。「大型の戦艦や重巡は残す?」

「そうだ。敵は大型艦のみで〈ヤマト〉を迎える気でいるのだ。やはり〈ワープ・波動砲・またワープ〉などできないはずと踏んではいて、余分な兵を逃がすのは万が一のためなのだ。そしてまた、あの星に我々をおびき寄せる罠でもある――基地に百の船がいては〈ヤマト〉が近づけないことを、やつらの方も知っているのだ。だからわざと十隻にして、『来るなら来い』と呼んでいる」

「〈ヤマト〉は一度に十隻程度としか戦えない……」と徳川が言う。「敵もそれを知っていると?」

「当然だろう。そのくらいの見積もりは立てるさ。主砲と補助エンジンが焼きついた後の〈ヤマト〉はただの標的艦だ。駆逐艦や軽巡にさえ殺られてしまう。〈ヤマト〉を弱らせておいたところで、一度逃がした九十の船を呼び戻し、思うがままに嬲り殺す。そして地球の人々に見せつける気でいるのだろう。お前達の最後の希望の船とやらはこうしてやった。もうお前らに子は作れない。後にはただ最後のひとりが死ぬまでの十年間があるだけだ、とな」

「それじゃあ、やはり波動砲は撃てない……」南部が言った。「撃てば九十が戻ってきて、ワープで逃げることのできない〈ヤマト〉は囲まれてしまうから……そういうことですか」

「そうだ。〈スタンレー〉攻略に際し、波動砲は使わない。これは決定事項であると考えてくれ」

「はい……」

と南部は頷いた。宇宙の戦いは〈逃げるが勝ち〉だ。〈ヤマト〉はいつでもワープで逃げられるようにしておかなければならなかった。特に敵が百隻もいて、護衛を持てない〈ヤマト〉を囲もう囲もうと機会を狙う状況のもとでは――それがこの太陽系外縁部だ。ここでは〈ヤマト〉の波動砲は使えない。この原則は鉄則であると言うより他にない。外宇宙に出てしまえば話は変わってくるかもしれぬが、とにかく今のところは撃てない。もともと誰もが理解していたことだけに、南部だけでなくみな頷くしかなさそうだった。

「艦長は、〈ヤマト〉が行くとき〈スタンレー〉に敵はいないとおっしゃいました」新見が言った。「船が十隻、戦闘機が百機程度であるだろうと――だからわたしはそれに基づき作戦を詰めました。すべてこれを見越していたわけですか」

「そうだ。このため波動砲を撃った。波動砲の力を見れば、やつらは恐れ慄くと同時に、何がなんでも〈ヤマト〉を止めようと考える。しかしやつらにそんな手立てもまたないはずのものだった。何せ〈ヤマト〉は強力だ。宇宙の戦いは〈逃げるが勝ち〉だ。ガミラス艦を五隻沈めてワープで逃げて、五隻沈めてワープで逃げて、と二十回繰り返したら、たとえ百隻いたとしてもやつら全滅してしまう。わかっているから今ここには寄ってきもしない。やつらとしてはタイタンだけが〈ヤマト〉を止めるチャンスだったのだ。なのにあそこで取り逃がした」

「だからもう、〈スタンレー〉でやるしかない――敵の方でも、これは決戦?」