ガンダム 月の翅
地上では火蓋が切られようとしていた。今やヒトガタとなった2つの化物に対しハンター達が10機のアラクネで挑もうとしていた。18メートルのヒトガタに対し9メートルのアラクネでは10対2の多勢に無勢でも散弾銃を持った人間に小型犬が立ち向かっているも同然だった。
「オラアアァァァ!!」
一機のアラクネがそれまで眠らせていた闘争本能を呼び覚まし先制攻撃を仕掛けた。掘削使用のため手首から先はドリルに換装されていた。
敵前まで来ると八本の脚で踏ん張りを利かせ、垂直にジャンプするとともに脚の付け根、八本の脚の中心部にあるスラスターを噴かすと一気にヒトガタの頭部まで舞い上がった。そのまま頭部にドリルを突き刺し、脳をえぐり出すかの如く手首を高速回転させた。
キュイイイィィィィィ‥‥‥ィィ…ィ…ィ‥ン
「はっはっはっはっは…………は?」
ドリルの回転速度が急激に落ち、完全に止まった。普段から血の気が多いせいでもはや興奮状態に陥り先制突撃をしたシドだったがさすがに冷静になった。燃え盛る炎が突如鎮火したおかげで物事の分析、判断にいち早く移行した。
ギッ…ギッ…という感触に「掴まれている」感覚があった。狙われている、喰われる——そうよぎった瞬間、ズズッとアラクネの胴体が動き、即座に自身の右手首をトカゲの尻尾よろしく切り離し化物から離脱した。残った手首はずぶずぶと飲み込まれていった。シドは意識が飛んでいた。
その光景を傍観していたハンター、アラクネ部隊は圧倒され動けずにいた。何しろ戦闘なんぞ初めてなのだ、初陣がこんなにも訳のわからない相手では分が悪すぎたというほかない。
「クロード・ファウストを引き渡してもらおう。こちらも事を荒立てるつもりはない。早くしてもらおうか」その声には次第にストレスがかかっていた。闘うか引き渡すか、時間の猶予はなかった。ハンターのトップ、現時点で隊長のプラント・ペイジは唾液を飲み込み一呼吸すると「かかれぇー!」と狼煙を上げ、部隊は一斉に突っ込んでいった。
ドオオォォォン
化物とアラクネとの間に爆発が起こり砂塵が待った。
息吹が聞こえ、
砂塵が晴れていく
「悪い、待たせた」