ガンダム 月の翅
課題は多かった。しかしアベニールの存在はここの大きな手がかりになり得るかもしれない。クロード、メイ、フィリアス、レト、アラウダらがアベニールを囲んでいた。
「記憶が断片化してしまってね、どこから話せば良いか…」
「この建造物について、いつからここに埋まっていたのか、目的は、これらについて教えてくれ」クロードはとりあえず尋ねた。
「まず、この船の名前はスリチュアン、帰還船。いつからここにか…そうだな…500年くらい前から、かな」
「帰還船とは?」
「地球外の新天地から還ってくるための船、この船の乗組員は言わば出戻り組だね」
「ちょっと待って、あなたは少なくとも500年はコールドスリープしてたって事よね?他の乗組員はどうしたの?」メイだ。
「この船を出て各地へ散らばった。そして子を産み、育て、次の世代へ血を紡いだ。それが繰り返されて…君たちがいるわけさ」
「つまり私たちは何世代ぶりに戻ってきたのね、どこから還ってきたの?」
アベニールは少しうつむいて、「ずいぶん昔のことだからね、どこかに記憶があるんだけど…」
「どういう意味?」
妙な言い回しにひっかかった。
「あぁ、何百年眠るかわからないからね、もしコールドスリープに不具合があったことを考えて何十体かの記憶兼記録媒体を造ったんだ」
「記録?」
「今言ったように何百年眠るかわからない、その間にも万物は流転し続ける……眠りから覚めた時のためさ。僕がカプセルの中で眠っていたのを誰か見たようだけど、あれは500年分の情報を観ていたんだ。他には?」
「その記録媒体とはどういった物だ?」フィリアスが聞いた。
「人の形をした機械人形、簡単に言えばサイボーグさ。君たちも知っているネオ・カンブリアとかね」
メイとレトは目を合わせ、メイはやれやれと一息ついた。
「あ、そうだ、他の人たちには僕をネオ・カンブリアのリバイバルということにしよう。その方が事がスムーズに運ぶからね」
アベニールは無邪気な笑みを浮かべた。
ドルドレイはカントの持ち帰った映像を見ていた。
「成る程、インディファイン・ギアは脆いな試作品だから仕方ない、ところで…被験体2569は登録抹消そして処分で」
「お待ちください」
カントが反射的に遮った。
「彼女を潜入捜査員として活用してみては?」
「ならん、たいした情報は与えてないはずだが機密漏洩は避けなければならない」
「私と彼女は一人の人間を素体にしています。従ってこちらからリンクを仕掛け彼女の視覚聴覚をジャックしリークが可能です。さらには彼女を操作する事も出来ますが」
「………ふむ、ではしばらくそれで様子を見るが、もしもの時は貴様共々処分する」
カントは幸運だった。脳波のリンクが可能な事は二日前にわかったばかりなのだ。レプリとカントは元々一人の人間をベースとして造られた。カントはそれをヒントに探ってみたところレプリの視界がぼんやりと見え、次第に鮮明さを増し、周囲の音も聞こえてきた。まだ遠隔操作は試してないが出来る自信があった。