ガンダム 月の翅
反射的に目をつむり姿勢を崩したクロードはそのまま仰け反り、押し倒されてしまった。
背中に地面の感触、続いて首回りにガブリと歯が食い込む感触があった。死を覚悟した。
しかしそれは違和感に変わった。牙にしては生ぬるく、皮膚が食い破られてもいなかった。うっすら目を開けるとピューマが覗き込んでいた。次に首の方を見るとピューマでないものが噛み付いていた。
《なんだ?毛むくじゃら・・・子供か?人間の?!》
この密林の中に人間の子供がいるはずもなく、容姿も伸びきった髪に顔が隠れていた。人の子とわかるには時間がかかった。
《近くに集落が………ピューマ?》
しかしいくら人の子と言えど顎の力は野生そのものだ。牙でなくとも頸動脈を噛みちぎられるかもしれない、クロードは先ほど降ろしかけた銃を探した。幸いにも右手が届く所にあったので引き金に指をかけ、威嚇射撃を放った。
発砲音により子供は飛び退き重心の反動でクロードは指にダメージを負い、絶叫した。
襲いかかろうとしていたピューマは体が硬直し、子供はピューマに抱きつく、その姿は親子そのものである。
改めて子供を見ると髪は赤く長く、顔は口元しか見えず、一糸纏わぬその裸体は褐色の肌であり、女の子だった。
10歳くらいだろうか?言葉は通じるだろうか?
女の子は四つん這いになり「ウゥ~ッ」と唸った。
とりあえずはこの場を去ろう。何しろ野生の親子だ、背を向けたら襲われるかもしれない。
ふと妙な事に気づく。子供はともかく母親は何故襲ってこないのか?それどころか威嚇の姿勢ですらない。そう思っていると母親が急に姿勢を崩し、そのまま地面へと倒れ込んだ。
即座にピューマに駆け寄り症状を見た。少女はクロードを見つめていた。
「緊急回線こちらクロード、ポイントE-26、すぐに来てくれ」