ガンダム 月の翅
¬スリチュアンから発進した小型艇アラクーダが太平洋の上空にいた。小型艇といいつつも全長は20メートル程あり、その姿は蜘蛛に翅を生やしたような奇妙な形をしていた。飛行中は脚を折り畳み、その上今は脚でザクを抱えているという、地上から見れば奇怪極まりない物体であった。
アラクーダの舵はリム・ペダルがとっていた。15という年齢でありながらも船の操縦を軽々とこなす器用な少年である。
「これがヤーパンですね、エンジンはもっと先です。低空飛行に移行します」
「しかしよくここまで目を付けられなかったもんだな」
ヤーパンが見え、クロードの体を縛っていた緊張が解けていった。
「部分的に光学迷彩をつかいましたからね」「そうだといいけどなぁ」
緊張は解けても体は重い。
「あれは…なんだぁ!?」
飛行艇の高度が下がった事により彼らの目には幾つかのドームが浮いている光景が映っていた。
「ヤーパンという列島の地下深くはプレートの集合地みたいなもので、太古から地震が多いんです。それに火山も多くて、陸上はとても永く人が住めるようなところじゃないと言われるようになったんです。ミノフスキー技術が進歩して街を浮かせられるようになり、ついには空に街を造ってしまおう、という事になって・・・はじめはオールドキャピタルであるトーキョーだけでしたが、いまでは殆どの地域が空に街を浮かべて、その中で人が暮らしているんです。あのドームはシエルポリスといってシエルは上空と殻と2つの意味、そして都市という意味のポリスでシエルポリス、というみたいです」リムの十倍返しの説明にペイジをはじめとするクルーは圧倒されていた。
「そのなんとかスキーってのぁ何だよ?」
クルーの中にはシドもいた。
「ミノフスキーというのは粒子状の物質です。これのおかげでビームを撃てたり巨大な物体が重力に逆らう事が出来るんですよ」
「万能なんだな」
「えぇ、ほとんどそんな感じです」リムは至ってわかりやすく説明した。
「どちらにしても僕たちがいたような閉鎖空間に変わりはないですけどね」
シエルポリス群を過ぎるとしばらく何もない平野が続き、また別のシエルポリスがあった。前方には巨大な山脈があり、近づくにつれて朱みがかった景色が落ち着きを取り戻していった。
「ん?」
クロードは山脈に何かを見た、気がした。それは視覚というよりも感覚で捉えていた。
「どうしました?」
「ここ、ズームしてくれないか?」
彼らの見ている景色は厳密に言えば生の景色ではない。カメラで捉えた映像をCG処理したものを壁面ディスプレイで見ているのである。CG処理といっても10の-24乗秒で行うのでタイムラグは皆無であり、映像にしても生の目で見る以上にくっきりしている。
クロードの指した場所をズームすると(この時ズームした映像は別ウィンドウホログラムで映し出される)三十機あまりのモビルスーツと球体の影があった。
「主砲ってあるのかな?」「えーっと…あるみたいです」「じゃあ主砲準備ィ、発射用意!!」