ガンダム 月の翅
レイ、パンタ、ザッパ、トシは洞窟内を逃げ惑っていた。
「くそっ何なんだよあれは!」
「インダストリアは何考えてんだかな!レイ!まだかぁっ!」
「あと少しっ…」
とにかく背後から来る化物からは逃れなければならない、洞窟から一刻も早く外へ出なければ、その先に敵がいたとしても。
「ぐうぁっ!」「!?」
レイとパンタが振り返るとザッパが倒れていた。
「トシィ!ザッパを担げぇ!」
止まれば全滅と即断し、パンタは言い放ったが
「ダメだァ!足にィ!!」
ザッパの足は化物の触手にがっしりと掴まれ、一筋縄で抜け出せそうになかった。
「くそぉっ!」
トシは触手にハンドガンを放つも効き目は現れなかった。
「トシ、これを…」
ザッパは懐から棒状のものを取り出しトシに渡すと
「俺の脚を切れ」と命じた。それは小型の、もとい人間用のビームサーベルだった。
トシはしばらくビームサーベルを握りしめていた。
「何をしている!早く斬れッ!」
ザッパの威喝にトシの眼は極限まで開き
「うああああああああああああ!!!」
死刑の執行や切腹の際の介錯において首を切り落とす際、執行人、介錯人は腕の立つものでなくてはならない。一度で切り落とせなかった場合、斬首対象者は無限の苦しみを味わい、のたうち回る事になる。西暦、中世時代の死刑執行でこのような事は珍しくなく、中には斧を持ち出しても首を落とせなかった事例もある。それほどまでに人間の体の切断は容易い事ではない。
しかしこの時代、かつてモビルスーツが手にし、一振りすれば人間の体を丸々蒸発、消し炭にしてしまうビームサーベルは今や人間が手にするまでに進化した。それで人を斬るとき、それは斬るというよりも焼き、熱し、蒸発させるという物になり、そこに人間の皮膚、肉、血脈、神経、骨、細胞一つ一つを感じる事なく終わるのだ。そして斬られる方も細胞の悲鳴を聴く事はない。故に、ザッパの脚を切り落とした時、感じるはずの奇妙な感覚をトシは感じなかった。
「走れぇっ」
トシがザッパを背負い先頭まで躍り出、殿になったパンタは向かってくる触手に三発の手榴弾を投げた。五秒後、轟音が駆け抜け岩盤の崩れる音がした。これで少しは時間を稼げるだろう、パンタはそう思うので精一杯であった。