ガンダム 月の翅
静寂が訪れた。彼らの息も切れ、前方から冷たい風が吹き付けてくる。それは彼らの体の熱を冷まし、頭を覚ませた。
《静かになった》
先ほどまでの騒々しさが嘘のようだ。不気味な静寂ではあるものの不思議と不安はなく解放感があった。
ヴィーッヴィーッヴィーッ
静寂が引き裂かれ一気に現実へと引き戻された。音の発信源はレイの手首についている通信機からだった。
「リュウ!どこにいるの!?」
「敵の機体を奪った、合流したい、どこにいる」
「山の洞窟の中!機体を奪った…?」
「インダストリアのらしい期待が次々と集まってきてな、変な船まで来たからそいつについていた奴を奪った。そいつで幾つか落とした」
「変な船…?とにかく近くまで来て、位置わかるでしょ?」
リュウは手首の通信機でレイのいる場所を確認すると「了解」といい、さらに一機墜として向かった。
主砲発射直前、船に鈍い振動が走った。
「ストーップ!砲撃中止!」
クロードは急遽止めさせようとしたが、主砲は発射された。まばゆい光に覆われ船全体が大きく揺れた。視界が回復したときには敵部隊の半数が蒸発していた。
想定を遥か超える威力にアラクーダ乗組員は茫然とした。が、モニターに映し出された外の景色を見た瞬間に我に返った。
彼らが見たのは誰も乗っていないはずのザクが敵部隊へ吸込まれるように向かっていく様だった。
「主砲の照準を合わせろ、早く!!」ペイジが怒鳴った。しかしクロードが素早く遮った。
「何考えてんの!ザクもろとも吹き飛ばすのか!?」
「まだわかんねぇのか!ザクは敵に奪われたんだよ!近くに奴らがいて奪ってったんだよぉ!」
クロードは迷った。今の戦力でザクを手放していいのか?スリチュアンの謎の手がかりになるんじゃないのか?何より少なからず愛着もある、直接的でないにしろ自分の手で葬る事になる。
「リム…トリガーをペイジに」引き金をペイジに託すとクロードはモニターから遠ざかった。
「照準、誤差修正セット完了、充填開始!」
主砲の再充填が始まりエネルギーが溜ってゆく、ペイジの引き金を握る力が増してゆく、クロードの鼓動が早くなる。