ガンダム 月の翅
「発射十秒前!揺れと閃光に備えろ!」各々で目を覆い、レトに至っては伏せていた。
「5!4!3!2、1…」
船は揺れなかった。そして眩い光が包む事もなかった。
「どうした?」
クロードは何も感じなかった事に不安を感じた。
「いや、ちょっと見てくれ」
ザクが超質量ビームハンマー片手に球体を敵機にぶつけていた。敵機体を利用した独特な戦法で一機一機着実に撃墜していった。
「勝手に動いてるのか…?」
モビルスーツがリモート操縦として自動で動く事自体は特別おかしくはない。しかし今のザクの動き、明らかに意思のあるような戦い方だ。
敵機を五機ばかり墜とすと山岳の中腹部へと向かっていった。レーダーで確認すると、その先にはエンジンがあった。
ジン・ヒノモトは拳を握りしめ歯を食いしばり身体を震わせていた。一瞬にして見方の半数を失い、その上たった一機のモビルスーツに5機墜とされたのだ。恐怖、怨恨、そしてこれらを遥かにしのぐ自責の念がジンの身体を痙攣させていた。
「ぅ…ぅぅぅうおおおおおあああああああああああぁぁぁぁ!!!」
ヒノモトは身体に溜ったものを息が切れてもなお吐き出した。底まで空になるとコックピットのハッチを開け新鮮な空気を一気に吸込み、身体中に充満させ骨の髄まで染み渡らせると前方を睨んだ。陽はほとんど沈んで辺りを闇が包み、見方を蒸発させた飛行艇が不気味にたたずんでいた。
「……残った者に告ぐ・・・これよりあの飛行艇を墜とす!!」
アラクーダの舵を再びリムが取り、ザクの後を追った。
「お、おい!」
シドがレーダーで敵機の接近に気づいた。十数の機影が向かってきていた。
「アラクネだけでやれるのか!?」
迷う暇はない。シドとペイジはアラクネでアラクーダの甲板に張り付き迎撃を開始した。ペイジ機の右手首から先は高出力レイザーキャノンに、シド機は両手首をドリルに換装していた。ペイジはアラクネの体勢を整え、狙いを定め、撃った。粒子は敵機体を翳め、彼方へと飛んでいった。小型飛行艇の甲板から狙いを定めたとて半永久的に空中戦が可能な機体相手の狙撃は至難の技とはいかぬまでもバツが悪い。
「クソッ」
二射、三射と続いて躱され焦りが集中力を削らせた。そのせいか別方向からの接近に気づけなかった。