ガンダム 月の翅
「バイストンウェル?・・・アガルタの事だろうが、引き続き頼む。
さて」
トルストイは通信を終えると正面に立つ男、ジン・ヒノモトに畏まった。
「君の送ってくれたデータはこれから非常に役立つことだろうそれを讃え君には…アンナ君、案内を」
「こちらへ」
トルストイに促され、アンナはヒノモトを連れ出した。
「バイ何とかというのは・・・アガルタなら聞いたことはある。確か地球の内側の」「こちらです」
ヒノモトの問いは沈黙を破ったが一瞬に過ぎなかった。
案内された先には『インダストリア開発部第3実験室』とあり、実験室という割りにはかなりの大きさがあった。ゲートをくぐるとヒノモトの目に突如として巨人が映り込んできた。
「ジン・ヒノモトさん、あなたにはこちらの先行型次世代試作機、スプウェル・フェムーリオに乗っていただきます」
「スプウェル…フェムーリオ……」
ジュラルミン色に包まれた装甲、流線型を基調としたボディは無機質な妖しさがあった。
「私が…これに…」
ヒノモトはゆらりと取り憑かれたような錯覚に陥り立ちくらみ、そのまま視界がゆっくりと暗転していった。完全な闇に堕ちた途端、次第に異様な光景へと場面が転換した。
夜の闇を飛んでいた。ジュラルミン色の妖塊が辺りを埋め尽くし、冷たい風が吹いていた。
そして、艶やかなボディから無数の禍々しい塊が放たれ、どす黒い赤が一面に広がった。
『熱い…熱い…溶ける…熱い…助けて…
うわあああああああああああああああああああああ!!!!!」
ヒノモトは身体中から燃えるような汗が噴き出し、涙を流していた。いつの間にか幻覚にうなされていた。
「ここは…」
「簡易医務室です」
「そうか、私は…」
「突然倒れられここへ運ぶ最中に今のように暴れられて」「迷惑をかけてしまった、すまない」
「いえ」
「しかしあれは、あの機体は」どういうものなんだ?とは続かなかった。続けるにはためらいがあった。求める答えはないだろうという思い、そして自分自身の肉体に魅せられた光景が質問をうまく形にできなかった
ヒノモトは思考を巡らし、なんとか一つの質問を捻り出した。
「誰が造ったんだ、アレは」そして、「あの機体の設計者に会わせてほしい」
『ということですがよろしいですか?』アンナの声には艶があった。「任せる・・・動きはあったか?」トルストイは再びカントに赴いた。
『データを送ります』カントは焦っていた。さらに続けて『ジブラルタルに兵を派遣してください』と言い、通信は途切れた。
《ジブラルタル・・・?》
トルストイはホログラムマップを一瞥するとアンナに
「ジン・ヒノモト、スプウェル・フェムーリオでジブラルタルへ向かえ」と告げた。